2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K06162
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
米田 夕子 静岡大学, 農学部, 准教授 (90638595)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リグニン-糖複合体 |
Outline of Annual Research Achievements |
木質資源を化学的に利用する場合には,木質資源中に混在するさまざまな化学成分の中から,所望の成分のみを分離,精製して利用することが一般的である。この分離プロセスにおいて廃棄されてきた成分の中には,精密な化学構造を有する化学物質も少なくない。本研究では,木質資源に含有されるリグニンと多糖類とが共有結合により結合した物質「リグニン-糖複合体(Lignin-Carbohydrate Complex,以後LCCと略す)」に着目し,慣用されている化学工業製品の代用品となりうる物質の創生を目的としている。 研究1年度(令和2年度)では,LCC断片モデル化合物の作成を重点的に行い,数種のLCC断片モデル化合物を得た。 研究2年度(令和3年度)では,研究初年度に得たLCC断片モデル化合物の解析から得たさまざまな化学的特徴を指標として,木質資源(木粉)内に存在するLCCの評価を実施した。木粉に内在するLCCを評価するには,まず,木粉からLCCを分離,精製することが必須となる。溶剤への抽出や分子を破壊しない化学処理などについて,LCC断片モデル化合物を用いて事前調査を行い,アルコール類などの溶剤に可溶であることを確認していた。しかしながら,木粉からこれら溶剤を用いて抽出した溶液について,濃縮あるいは軽度の精製を行うと変性しガム状になるなどしたため,溶剤に溶解した状態でLCCを有為に分離し難いことを見いだした。そのため,次にLCCを固体状態で評価する方法について検討した。研究1年度目に調製LCC断片モデル化合物,低分子リグニンモデル化合物,各種糖類,市販のセルロースやヘミセルロースなどとの特徴を比較することで,LCCに特徴的と推察できる指標を複数見いだすことができた。この点は研究計画段階で予想した結果を上回る成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年度目に引き続き,LCC断片モデル化合物および木質材料関連モデル化合物の調製に取り組み,研究に必要なある程度の量の各種LCC断片モデル化合物を確保できた。さらに,調製したLCC断片モデル化合物を指標化合物として,木粉中に存在するLCC(と推察できる物質)の検出段階まで進み,予想を上回る成果が得られたため,研究はおおむね順調に進展していると判断している。 「研究業績の概要」に記したとおり,本研究においてもLCCを溶剤に溶解させた状態で抽出することは,現時点では実現していないものの,多くの有為なネガティブデータを蓄積できた。これらの情報を活用し,固体状態で得たLCCを含む木粉からの抽出物を固体試料の状態で評価する方法について検討した。その結果,LCCに特徴的と推察できる指標をいくつか見いだすことができた。ただし,木粉からのLCC抽出方法の違いや,木粉の樹種の違いによるデータのばらつきも確認された。そこで,まず樹種を絞り,木粉の処理方法に起因するデータのばらつきについて精査しているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年度目において当初の予想外の有為な結果が得られた。当初の研究計画にこの結果を活用できるようあらたにいくつかの実験を加え,精力的に研究を進める。本研究課題の研究目的のひとつに「木材(木粉)中のLCCを正しく評価する」ことがある。これは「木材からLCCを抽出する」ことと表裏一体の目的である。当初は,LCCを溶液状態で評価することに主眼を置いていたが,LCCを固体状態で評価することに主眼を移しつつ,なおかつ,当初の研究計画で実施予定であった溶液状態での評価も行っていく。 これまでにLCCと断定できる物質を木粉からは得られていない。そのため,本年度は木粉の前処理方法およびLCCの抽出方法について十分検討する。前処理方法では研究2年度目に用いた条件をもとに,段階的に反応条件を変更する。あるいは,採用しなかった薬品についても検討する。また,化学的検討だけでなく,物理的処理についても試行予定である。 LCC断片モデル化合物についても引き続き作成,評価を行う。木粉への前処理条件が分子構造に与える影響を判断するため,本年度もLCC断片モデル化合物を大量に使用予定である。そのため,LCC断片モデル化合物の有機合成について大量合成に最適化した反応条件の検討を綿密に行い,さまざまな化学処理あるいは物理処理に対するLCC分子構造の変化について詳細なデータを得られる体制を整える。
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Causes of Carryover |
学会参加にかかる旅費を使用しなかったため次年度使用額が生じた。次年度の参加予定学会の旅費についてはすでに申請しているため,生じた次年度使用額は主に研究成果発表にかかる費用として使用するつもりである。
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