2021 Fiscal Year Research-status Report
Recycle of rubber by wood rotting fungus, Piptoporus soloniensis
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20K06170
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Research Institution | Tottori University of Environmental Studies |
Principal Investigator |
佐藤 伸 公立鳥取環境大学, 環境学部, 准教授 (60467438)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 木材腐朽菌 / 加硫ゴム / 破断強度低下 / 再資源化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではシロカイメンタケによる加硫ゴムの分解機構を解明し、その分解機能を廃ゴムの再資源化に活かすことを目的に研究を行っている。 昨年度、ゴム分解菌として単離された菌がrDNAの相同性からシロカイメンタケではなく、白色腐朽菌ハカワラタケ(Trichaptum biforme)に近い種であったこと、そして菌処理したあとの加硫ゴムの内部では、ゴム分子間の架橋に係る硫黄の結合であるC-S結合の減少とともに、SO2、およびSO4に由来するS-Oの生成がX線微細構造法により明らかとなった。これらの成果を踏まえ、本年度はゴムの分解とゴム分解菌の分泌する成分との関係に着目し、菌体外分泌物が引き起こすゴム内部の化学結合の変化、またゴム材料の物性変化を調べた。 ゴム分解菌ハカワラタケをブナ・ふすま固体培地で4週間培養し、その培地から抽出した菌体外分泌液全体を用いて、in vitroで加硫ゴムシートと接触反応を行った。その結果、菌分泌液とテルピン化合物との組み合わせで、加硫ゴムの物性が大きく変化し、ゴムが軟化することが明らかとなった。菌分泌液のみでは変化しないことを確認した。またテルピン化合物単独でもゴムは軟化するものの、菌分泌液とテルピン化合物の混合溶液によって、加硫ゴムの破断強度が20%以上低下することを確認した。また、加硫ゴムに対する分解作用が確認されている同じTrichaptum属の菌であるシハイタケ(T. abietinum)の分泌液中にも、テルピン化合物との混合で加硫ゴムの引張強度を低下させる成分が含まれていることが判明した。このことから、Trichaptum属に共通した菌体外分泌成分が加硫ゴムの特性に何らかの影響を与えていることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゴム分解菌ハカワラタケ、並びに同じTrichaptum属のシハイタケの分泌する成分の中に、テルピン化合物と混合することでゴムの引張強度に影響を及ぼす成分が含まれていることが明らかとなっている。キノコの分泌液とテルピン化合物の作用で加硫天然ゴムの破断強度の低下が起きることを見出したことは、これまでにない知見である。破断強度を低下させる菌の成分について、現在その成分分離を行っている。これまでのところ、タンパク質よりも分子量の小さい画分にゴムの破断強度を低下させる傾向が見られている。 ゴム分解菌の分泌液中に加硫ゴムの引張強度低下、並びに破断強度低下促進効果を見出したことは、ゴムの再資源化プロセスへの応用を考えると非常に重要な意味を持つ。加硫ゴムを再生材の原料として再資源化するためには、かさばるゴムを機械によって物理的に粉砕、細粒化する工程が不可欠となっている。この粉砕プロセスにゴム分解菌の分泌液を応用し、かさばるゴムを軟化できれば、廃ゴム再資源化の最初のステップである粉砕工程において、時間と労力をコストカットできる。さらに、菌の分泌液に含まれる成分は、微生物が生産する物質であるため基本的に環境に無害であり、他の生物によって生分解されるものであることも実用化を考える時に大きなメリットとなる。現状の成果から実用化へのシナリオがイメージできることから研究は順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに明らかとなったゴム分解菌ハカワラケ、並びに同じTrichaptuim属のシハイタケが分泌する成分と、テルピン化合物との混合溶液よって、加硫ゴム引張強度、並びに破断強度が劇的に低下する現象を明らかにするため、菌が分泌する成分のうち、ゴムの軟化促進に強く関与する物質の単離と精製を、昨年度に引き続いて行う。現在までに、タンパク質よりも分子量の小さい画分にゴムの破断強度を低下させる傾向が見られているが、物質の特定には至っていないことから、その成分について引き続き研究を進める。そして、菌分泌成分と作用させることによって起きるゴムの破断強度の低下が、加硫ゴム中のどの化学結合が変化することによって引き起こされるのかについて化学分析を行う。 また、物性が変化する加硫ゴムの材質の方にも注目する。これまでの研究では、一般的な天然ゴムをベースとした加硫天然ゴム材料を用いて、ゴムの軟化と破断強度の低下を調べてきた。しかし、ゴム材料にはブタジエン系ゴムやクロロププレン系ゴムなど、様々な種類の合成ゴムも存在する。実際のゴムの再資源化を考えると、ゴムの種類の適応範囲を明確にしておく必要があることから、材質の違いと破断強度低下の関係についても検討する。
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