2021 Fiscal Year Research-status Report
天然環境下でのエゾアワビ被食死亡における各種害敵生物の重要度の再検討
Project/Area Number |
20K06179
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
早川 淳 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (10706427)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | エゾアワビ / 被食ー捕食関係 / ヒトデ類 / マダコ / カモメ類 / 捕食痕跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度においては、昨年に引き続き岩手県大槌湾を中心とした三陸沿岸域において、ヒトデ類、タコ類およびカモメ類によるエゾアワビ捕食の実態について継続的な野外調査および飼育実験を実施した。 ヒトデ類による捕食については毎月の潜水調査により、生息密度の高いヒトデ類3種を対象としてその餌生物の種組成の長期的なデータを蓄積している。これまでエゾアワビの捕食者と考えられてきたエゾヒトデ、タコヒトデ、イトマキヒトデについてその餌生物組成は種によって明瞭な差異が確認され、季節による餌生物組成の変動が示された。しかし、いずれの種もほとんど、または全くエゾアワビを捕食していなかった。稚貝放流後においてもヒトデのエゾアワビ捕食は活発化せず、ヒトデ類による被食死亡の影響は天然環境下においては限定的であると考えられた。 大槌湾内複数の調査点において、エゾアワビ死殻の継続的な採集を行っており、死殻に残る捕食痕跡の分析から、2021年度においては死殻の40%程度はマダコによって捕食されたものであることが明らかになった。これまで報告されていたマダコによる被食死亡個体の殻長の範囲よりも、より小型のエゾアワビにもマダコによる捕食痕跡が確認され、エゾアワビの生活史において、既往研究で想定されていたよりも長期にわたってマダコの捕食圧による影響が大きいものと推測された。 カモメ類によるエゾアワビの捕食についても継続的な定点調査を実施し、その季節的・経年的な変動について長期的なデータを蓄積した。2021年の春季においてはカモメ類によるエゾアワビ捕食は低頻度かつ少量であり、経年的な変動の要因を解明するため、海水温や風速等の環境条件とエゾアワビ捕食量との比較を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
継続的な調査の実施により、複数年に渡る長期的かつ調査頻度の高い観測データ、および 多量の死殻サンプルおよび野外での観測データが得られており、エゾアワビの被食死亡についてその季節的・経年的な解析が可能になっている。研究対象であるタコ類およびカモメ類は三陸沿岸域においてエゾアワビの主要な捕食者であると考えられ、浮遊幼生期および着底直後等の生活史のごく初期を除き、エゾアワビの減耗要因である被食死亡に関わる主要な被食―捕食関係の大半を把握することに成功していると考えられる。 野外調査および飼育実験について手法が確立されており、今後の継続によって被食-捕食関係に関するデータおよび環境条件のデータの蓄積が進むことで、被食死亡による減耗の経時的な変動要因について更に正確な分析が可能となることが予想され、研究はおおむね順調に進捗している。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在実施している野外調査を継続し、主要な捕食者の出現状況とその餌生物組成、死殻の出現状況と捕食者の推定についてデータを蓄積する。また、これまでのモニタリング調査において、ヒトデ類の疾病による死亡、冬季水温の低下によるマダコの斃死など、主要な捕食者側の生理状態や個体数の多寡が季節的・経年的に大きく変動していることが分かっており、これらの調査結果とエゾアワビの被食死亡の季節的・経年的な変動を比較することで、エゾアワビの資源変動の要因が解明されることが期待される。 加えて、エゾアワビ稚貝の行動について飼育実験を行い、特にカモメ類による捕食の影響を受けやすくなる浅所への移動がどのような要因で生じるかを検討する予定である。
|