2020 Fiscal Year Research-status Report
従属栄養原生生物の単離株を用いた細菌摂食による炭素輸送過程の再評価
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20K06188
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
片岡 剛文 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (10533482)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 細菌捕食性原生生物 / 単離培養 / 日向湖 / 好気培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
水圏生態系の微生物ループにおいて、細菌捕食性原生生物が原核生物を摂餌することで輸送される有機物の輸送過程を明らかにし、定量的に再評価することが本研究の目的である。現場環境を反映した見積もりを算出するために、環境中に生息する微生物を用い、培養条件を制御した室内培養実験により有機物輸送量を導出することが重要である。そのためにまず、現場環境中から原生生物を網羅的に単離培養し、多様な原生生物株を取得する。次に、それらを用いて増殖および摂餌に関する生理生態学的研究、および餌細菌と原生生物の二者培養を作成する計画である。R2年度は、海水湖である日向湖湖心において2020年6月、7月、8月と2021年1月に複数の水深から湖水を採集し、細菌捕食性原生生物の単離培養を試みた。パスツールピペットの先端を細く加工した毛細管を用いて、顕微鏡下で細胞を単離し40株の培養株の確立に成功した。その内14株については、大量に細胞培養したのちにゲノムDNA抽出を行い、PCRにより18S rRNA遺伝子全長を増幅し、PCR増副産物もしくはクローニング法により大腸菌のプラスミドに組み込むことで単一化されたPCR産物を対象に、サンガーシーケンス法を用いて塩基配列を決定した。BLASTサーチにより公共のデータベース内の塩基配列と比較したところ、Supergroupレベルで異なる5つの系統に属する原生生物株であった。系統学的に広いグループを網羅した単離培養株の確立に成功したといえる。環境中から系統が異なる複数の原生生物の単離培養株を確立することで、広範囲な系統を網羅した炭素輸送過程を検討することができる材料を得た点で意義が大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、日向湖から5つのSupergroupに属し系統が異なる8種類の細菌捕食性原生生物を単離・培養することに成功した。公共のデータベースを対象としてBLASTにより近縁な塩基配列を検索したところ、Amastigomonas sp., Paraphysomonas sp., Cryptophyte sp., Pseudobodo sp.と97%以上の相同性を示す4株と、Bicosoeca sp., Vexillifera sp., Keelungia sp., Bodonidae sp.と、それぞれ94%, 83%, 92%, 96%と低い相同性を示す4株が得られた。これらは、Apusozoa, Stramenopiles, Amoebozoa, Euglenozoa, Cryptophytaの5つのSupergroupに属しており、系統学的に広いグループを網羅した単離培養株を確立したといえる。既知の配列との相同性が低い株は新属新種である可能性が高く、株の増殖生理のみではなく全ゲノム配列を明らかにすることで、新しい系統に属する原生生物として登録できる。また、当初はセルソータを持ちいて環境試料中の原生生物を網羅的に分取する予定であったが、湖水中にはコロニーを形成したり、有機物凝集体に付着するなど、粒子サイズにバラツキが大きく、フローサイトメトリーにより原生生物細胞を区別し、セルソーターにより選別することが困難であることがわかった。そのため、毛細管による細胞分取を実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度は、これまでに確立した細菌捕食性原生生物の単離株を用いて、原生生物の増殖生理実験および細菌摂餌実験を実施する。餌細菌と原生生物が一種類ずつの二者培養系の作成は困難が予想されるので、まず、餌細菌を複数種類含む培養系で増殖生理実験を実施する。つまり、生息環境で想定される温度域の5度から30度の間で複数の温度を選び、それぞれの条件下で増殖速度を計測し比較することでQ10並びに至適増殖温度を特定する。次に求めた至適増殖温度下で、疑似餌に見立てた蛍光ビーズとともに培養し、時間当たりに細胞内に取り込まれた蛍光ビーズ数を計測することで、原生生物株の潜在的な摂餌速度を導出する。また、並行して餌細菌の単離培養と二者培養系の作成を進め、培養系が確立した場合に、至適増殖温度下で増殖速度ならびに細菌摂餌実験を実施する。
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Causes of Carryover |
学内運営業務と学会運営業務が重なり、当研究に対するエフォートが著しく減少したことに加え、予定していたセルソーターの使用量が減ったため消耗品費の支出が減った。
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