2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K06205
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
木村 妙子 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (40346002)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川井田 俊 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (60743581)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 塩性湿地 / オカミミガイ / 個体数調査 / 移動距離 |
Outline of Annual Research Achievements |
耐塩性植物が生息する塩性湿地には多くの絶滅危惧種を含む底生無脊椎動物(以下,ベントス)が生息し,水質浄化作用などの様々な生態系機能を有する重要な場所のひとつであると言われている。しかし,塩性湿地における生物活動が実際に水質浄化にどの程度貢献しているのかを定量的に検証した例はまったくないのが現状である。今年度は,伊勢湾西岸において特に保存状態が良く,生物相が詳しく調査されている三重県田中川干潟の塩性湿地において,塩性湿地貝類の優占種の1種オカミミガイの個体数推定を行った。オカミミガイは絶滅危惧種であり,来年度から工事が開始される堤防に近い潮間帯最上部に集中して生息するために早急に調査が必要だった。本種の活動が最も活発になる2020年7月に目視による全数調査を行った。その結果1080個体の生息が確認された。また,オカミミガイの季節的な活動を明らかにするために,季節ごとに大潮1潮汐の移動距離を計測した。移動距離調査では5月,8月,11月,2月の順に移動距離が大きかった。また移動がほとんどみられなかった2月を除き,移動距離は夜に大きかった。本種が最も活動していた5月の調査期間の気温範囲は19.3℃から30.8℃だった。この結果より,この4ヶ月の中では5月が本種の活動に最適な時期であり,8月は日中の気温が30℃を超えたため,2月と11月は気温が20℃を下回る時間が長かったため,地中に潜る個体が増加し,活動活性が低下したと考えられる。また,夜間に移動距離が大きかったのは,本種が夜行性であるためと考えられる。巻貝類の餌資源を推定するために,優占種であるウミニナ,ホソウミニナ,カワアイ,ヘナタリ,フトヘナタリとそれらの餌と考えられる珪藻や有機物について安定同位体分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は新型コロナウイルスの拡大のため,調査の最適期である4月から5月にこの研究も含め,野外調査を行うことがほとんどできなかったため,予定していた塩性湿地全体の貝類相の調査を行うことができなかった。また,来年度から調査地付近の堤防工事が始まることがわかったため,分布調査や行動調査について,対象種を堤防付近に集中して生息するオカミミガイを優先して行うこととなった。巻貝類の餌資源を推定するために,優占種とそれらの餌の安定同位体分析の試料採集を行った。しかし,分析機器がある千葉の東京大学大気海洋研究所が新型コロナウイルスの拡大のため,施設の利用時期が当初予定より大幅に遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は,塩性湿地貝類の個体数推定のために,伊勢湾西岸において特に保存状態が良く,生物相が詳しく調査されている三重県田中川干潟の塩性湿地の全域に10本のライントランゼクトを設置し,各ラインで10カ所(計100カ所)においてコドラート法を用いて,巻貝類を定量採集する。種別のサイズ分布や個体数密度を精査することで,塩性湿地全体における各種の個体数や個体群構造を推定する。調査は貝類の活動が活発な5月から7月に行う。また,巻貝類の餌利用パターンを明らかにするために,各種について食性解析を4月から5月にかけて行う。まず,濾過食を行なっているかどうかを明らかにするために,珪藻が入った水槽に生きた巻貝類を入れ,濁度と藻類の細胞密度の時間変化を調べる。もし濾過食を行なっている場合には濁度が低下し,細胞密度が減少する。また,貝類各種の消化酵素活性分析や炭素・窒素安定同位体比分析を行うことにより,セルロース分解酵素の有無や餌源の配分の推定を行う。さらに野外のケージ実験において,4月から3月までの個体識別をした巻貝類各種の成長を調査する。安定同位体分析について,昨年度は東京大学大気海洋研究所で行うことが難しかったため,今年度は三重大学で分析を行うことができるか検討する。
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Causes of Carryover |
コロナ感染拡大による調査活動の制限や学会大会のオンライン化のため,予定されていた調査賃金や学会参加旅費が使用されなかった。次年度に行う分布調査及び野外飼育実験や日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会参加で使用する予定である。
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