2021 Fiscal Year Research-status Report
着脱基質を用いた藻場造成によるウニと海藻の共生システムの構築
Project/Area Number |
20K06209
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
末永 慶寛 香川大学, 創造工学部, 教授 (00284349)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 核藻場 / 浮上式投入法 / ウニと昆布の共生 / 藻場造成構造物 / 多孔質基質 |
Outline of Annual Research Achievements |
東北地方沿岸部は,親潮と黒潮が衝突する潮目に近い海域であり,我が国における極めて良好な漁場として位置付けられる.しかし,2011年3月に発生した東日本大震災により,海底の地盤沈下,流動場の変化および磯焼けの問題等により,現在も震災以前のような磯根資源豊かな状態には戻っていない.また,漁業者の減少・高齢化と後継者不足も深刻な問題となっている.本研究では,事前に岩手県宮古市重茂地先海域に藻場造成構造物を4基設置し,海藻の繁茂状況とウニの蝟集量調査を実施した.一般的に,海藻被度を増加させるには「移植」,「光供給」,「栄養塩供給」,「基質の供給」,「浮泥除去」という技術が用いられるが,当該海域での磯焼け発生・継続要因を考慮して「移植」,「基質の供給」を選択した.海藻被度の増加を担う核藻場の造成の方法として,構造物および基質に直接種糸を巻きつける「構造物直巻法」, 構造物に設置した柱状体間にロープを渡してウニの這い上がりを防ぐ「柱間ロープ渡し法」, 種糸付きロープを構造物や天然の岩礁などに取り付けた「ロープ直結法」, ウニが這い上がる方向とは逆の上から下に降りる行動に難があると見なし,多孔質基質をロープで海中に吊り下げて昆布の幼体時期に捕食されることなく生長させることを想定した「基質吊り下げ法」を考案した.これらの手法を試みた結果,「基質吊り下げ法」が有効だと分かった.しかし,本手法を大規模かつ広範囲に採用するとなると,岩礁や構造物にロープを結び付ける構造上の問題,経済性,設置場所が制限される等の汎用性が低いという問題が発生した. そこで,海藻の着生と成長が認められた「基質吊り下げ法」で得られた知見を基に,新たに「浮上式投入法」を考案し,経済的にも安価かつ高密度にウニが生息する場所でも昆布場を造成でき,ウニと昆布の両者の共生と高齢の漁業者らが安全に操業可能であるという知見が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍ではあったが,現地漁業者との連携を強化し,基質の製作~設置~効果調査が研究計画通り実施できた.研究目的を果たすための様々な手法を試みて効果を検証した後,その中で有効であった手法により得られた知見から,より経済的かつ効率的な海藻増殖基質を開発し,実海域における効果を検証できた.具体的には,ウニによる食害を受けても昆布の成長が確保される新たな手法として,種糸を巻き付けたロープの下端を多孔質基質の土台に固定し,上端にはフロートを取り付けることで海底からの距離を確保し,ウニの食害を防ぎつつ海藻を育成する「浮上式投入法」を考案し,昆布の成長と費用対効果を検討した.実際の投入時には,ロープの途中に平板を設置し,ウニの這い上がりを抑制するための「ウニ返し」機能も持たせた.設置後約30日の時点において,ウニの生息密度が6.0個体/m2以下の条件では,昆布が50cm以上まで成長したことを確認できた.また,設置後 90日の時点では,約2~3mの成長が確認された.昆布の成長とともに,ウニが生息する海底まで昆布が垂れ下がったことにより,食害も一部確認されたが,昆布はウニによる食圧に耐え得る大きさにまで成長していたため,食べ尽くされることはなく,食害対策の効果は有効だと示唆された. 今回開発した浮上式基質投入法による費用対効果について,藻場の窒素処理効果によってB/Cを算出した結果1.61となり,経済的に評価できることが分かった.本手法は,これまでに普通船員(漁業就業者)が1人で船上から作業可能なことを実証しており,潜水作業の人件費がかからないことから総費用の削減に繋がり,経済的な効果も期待できる.また,漁業就業者にとっても地先海域で省力的かつ安全と評価でき,漁業就業者高齢化・減少という地域の実情にも配慮した藻場造成方法となり得ることが示唆された.関連する査読付学術論文も3編投稿・受理された.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,漁業者が実海域におけるより効率的な作業を実現するために,AIを用いて基質投入の最適条件を検討し,ウニ密度に対する基質投入時期およびウニと昆布の共生場の情報を漁業者に提供する.それらの結果を基に,当該海域における流動場の把握のための水理実験,藻場造成構造物設置適地の選定,海藻類の繁茂場,ウニの生息場,操業場等のゾーニングを行い,藻場造成の効率化と有用水産資源加入量増加に繋がるシステムを構築する.
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