2022 Fiscal Year Research-status Report
ヒメジは動く触鬚としわしわの顔面葉を使ってどのように餌の位置を特定するのか?
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20K06225
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山本 直之 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80256974)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 神経系 / 真骨魚 / 味覚 / 触鬚 / 脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般的にはヒゲと呼ばれることの多い触鬚(しょくしゅ)をもつ魚種は幅広い分類群に存在している。そのうち大多数の種は触鬚を動かすことはできない。例外的に、ヒメジや近縁のオジサンなどでは、さまざまな方向に触鬚を活発に動かして、海底の餌を巧みに探し出して捕食する。動かせる触鬚によって餌の位置を3次元的に定位するメカニズムを明らかにすることが本課題の目的である。初年度の令和2年度において、1)ヒメジの顔面葉の連絡と構成ニューロンの調査、2)ヒメジの触鬚の部位による味蕾の分布様式、分布密度や大きさの触鬚の部位による違いを調査した。令和3年度は、3)ヒメジと同じヒメジ属に属するヨメヒメジ、さらに別属であるウミヒゴイ属のオジサン、ミナベヒメジ、オキナヒメジ、ホウライヒメジについて、味蕾の分布密度や大きさの触鬚の部位による変化を調査し、種間比較を行った。その結果、味蕾の分布様式に大きな種差が存在することが明らかとなった。4)触鬚を動かす筋周辺に固有感覚装置が存在する可能性を調査するために免疫組織化学を行った。3年度目である令和4年度は、手がかりとなるデータは得られているものの、十分な検討が可能となる品質の結果が得られておらず、また例数も少ない1)と4)の実験を追加で実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)の実験としては、初年度である令和2年度において、触鬚からの味覚情報を受け取る1次味覚中枢である延髄の顔面葉の神経連絡をヒメジを実験魚として調査した。具体的には、神経回路の調査のために顔面葉に神経トレーサー物質であるビオチン化デキストランアミン(BDA)を投与する実験である。これまでに実施したことのない投与部位であり手術の術式が完成していなかったためか投与量が不十分で上位中枢である2次味覚核への神経投射が確認されたが、それ以外に可視化できなかった回路が存在していることが疑われる結果であった。今年度の追加実験のうち1例で、まだ不十分ではあるものの令和2年度よりは回路が明瞭に可視化された例が得られた。また、別属のオジサンにおいて、さらに明瞭に神経回路が標識・可視化された個体が1例得られた。両種に共通して確認された2次味覚核への上行性投射および間脳からの下行性投射は、他の魚種においてすでに知られているものであった。一方、やはり両種に共通していたが、これまでに味覚神経回路に関して詳細な調査のあるコイ科魚類やナマズ類では報告されていない、円形をした大きな神経核から顔面葉への投射が発見された。これは注目に値する結果である。 ヒメジ類は我々研究者が継続的に採集して研究に用いることは困難で、業者からの購入しているが、今年度は入荷個体数が少なく、また発注しても死着したり、実験開始後すぐに死亡したりする個体が多く、4)の実験については実施できた少数例の実験からは満足のいく感度の反応が行えた個体は得られなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗情報の項目でも述べたように、実験動物であるメダカやゼブラフィッシュやペットとして人気のあるキンギョやコイなどとは異なり、ヒメジ類の生魚は安定して入手することが難しい。飼育に使用できる水槽の数を増やして到着後の魚の状態を向上させる試みも行ったが実際には難しかった。今年度は、あまり状態の良くない個体については固定処理した後で実施することが可能なトレーサー物質を使用することも視野に入れて実験を行う。固定後に使用可能なトレーサーは、生魚において使用するトレーサー物質より広い範囲に拡散することや蛍光物質であるため、実験結果の評価を行うときに若干の不正確性が発生する恐れがあるが、現状を鑑みるに導入を検討せざるを得ないと判断した。
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Causes of Carryover |
実験魚がなかなか入荷しなかったこと、実験途中で死亡する個体が多かったこと、などの理由で、消耗品への支出が当初予定していたよりもかなり少なくなったため。次年度は、入手経路を増やし実験することを考えており、実験魚および抗体やトレーサーその他の消耗品の経費が大きくなり、次年度使用額をこれらの購入に充てる。さらに、実験に使用するガラス管電極を作成する装置が壊れたため購入する必要がある(50万円以下ではあるが、40万円近くの値段である)。
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