2022 Fiscal Year Research-status Report
Novel physiology of oceanic diatoms: they incorporate silicate minerals
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20K06226
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
赤木 右 九州大学, 理学研究院, 教授 (80184076)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 珪藻 / ケイ酸塩鉱物 / 溶解吸収 / 培養実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
珪藻は、専ら海水に溶存している栄養素のみを吸収し、成長すると考えられているが、私たちは、珪藻が微小なケイ酸塩鉱物粒子を溶解して、その中の元素を吸収することを示す幾つかの事実を得ていた。本研究は、珪藻の培養および珪藻が分泌する光透過性細胞外ポリマー粒子(Transparent Exopolymeric Particles, TEP)に注目し、その未知の役割を解明し、さらにその作用が珪藻にどのような利益をもたらすかを明らかにすることを目的としている。 今年度は、珪藻が鉱物の溶解することが、珪藻自身の成長や繁栄に寄与することを証明することに焦点を絞って研究を行った。 個体数や光合成活動の指標としてクロロフィル量の変化を追跡し、ケイ酸塩鉱物の存在が珪藻の活動にどのような影響を与えているかを調査した。光合成活動が衰えケイ酸に欠乏した時点で、ケイ酸を除く栄養を加えた時に、珪藻が継続的に増殖できることを確認するための実験を行った。また、海洋環境の条件を真似、ケイ酸濃度がゼロの状態で珪藻の培養を行い、鉱物の存在の影響を調査した。コロニーの形成も鉱物の溶解に関与している可能性があると考えられたので、各種条件で培養した珪藻についてコロニーサイズの計測も検討した。 珪藻の周辺のpH環境を調査するために、新たな蛍光指示薬を適用し、さらに水輸送の阻害によるpH環境の変化を調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究により、以下に示す、新しい実験事実が得られた。1) 珪藻の活動により珪藻周辺のpHが有意に低下し、pH3程度の環境が維持されていること。2)珪藻のコロニー内部には、鉱物粒子が保持されていること。これらの結果は、珪藻がケイ酸塩鉱物の溶解に寄与しているとする、本研究の動機により正当性を強めた。以下に、成果を具体的に示す。 蛍光指示薬Oregon Greenを用いて、珪藻周辺のpH環境を調査する際、塩化水銀による水の動きの制御の有無による、pH環境の比較を行った。その結果、塩化水銀の処理によりpHが有意に高くなり、そのpHはそのご再び戻っていた。これは珪藻の生育によりpHが低く保たれていることが明らかになった。TEPはpHの低下により珪酸塩鉱物が効率よく溶解することが報告されていることを考慮すると、珪藻が積極的に珪酸塩鉱物の溶解に関与していることが分かった。また、珪藻のコロニーを偏光顕微鏡で観察し鉱物粒子の検出を試みた。検討したすべての珪藻で鉱物粒子がコロニー内に保持されていることが分かった。 一方で、鉱物の溶解の珪藻へのメリットを証明するための試みは、期待通りには進まなかった。実験後に珪藻のコロニーの観察を行ったところ、珪藻の死骸が多く含まれていたために、鉱物の添加のメリットが効いていない事が推測された。天然系と異なり、培養実験では、死骸を含む珪藻のコロニーは除く事ができないため、鉱物溶解の珪藻へのメリットの証明は原理的に困難であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の研究より、珪藻がケイ酸塩鉱物を溶解するためにTEPを分泌するのはほぼ実験的に証明されたと考える。学術誌に論文を投稿することが残されているので、全力を傾けたい。本研究成果は、海洋科学の諸分野の知見に見直しが必要であることを示している。海外の研究者に確実に伝えることができるように、海外渡航を行なう。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、国際学会参加を見送ったため、旅費のほとんどが執行できなかったため。 本年度は、または英文著書の校閲または投稿論文の投稿料にあて、余裕があれば海外渡航に充当したい。
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