2020 Fiscal Year Research-status Report
九州山系ヤマメの秋銀化発動機構の解明と光波長による人為銀化誘導技術の確立
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20K06240
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
内田 勝久 宮崎大学, 農学部, 教授 (50360508)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 銀化 / 甲状腺 / 光受容体タンパク / 海水適応能 / ヤマメ / ホルモン / 光周性因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、サケ科魚類の銀化現象の生理学的な理解に、“光波長”という新しい視点を導入し、秋銀化発動の仕組みを分子レベルで包括的に理解することを目的としている。具体的には、短日化に伴う光受容器官や光周性因子の発現動態と、銀化に関連する内分泌因子群の動態を解析し、秋銀化の発動を光波長入力から内分泌系の出力に至る一連の生理機構として体系的に理解することである。 令和2年度は、まず、これまで春銀化系統ヤマメで発動する内分泌指標とされる、甲状腺形態の活性化と甲状腺ホルモンの分泌動態を、九州産の秋銀化系統種苗を題材に、5月から12月にかけて解析した。その結果、9月に僅かに銀化する個体が出現しはじめ、その割合は11月にかけて増え、体表の銀白化の程度も増すことが示された。また、11月には甲状腺濾胞細胞の細胞高や血中の甲状腺ホルモン量が非銀化個体に比べて優位に高いことも示され、秋銀化個体の内分泌系の発動ピークが11月であることが示された。さらに、秋銀化個体を12月に海水に直接移行した結果、移行1週間後の生存率は92%であり、九州産の秋銀化個体が冬期に高い海水適応能を持つことが示唆された。 秋銀化発動に寄与する光受容タンパクを明らかにするため、本年度は、脳組織からPCR法により、各種の光受容体遺伝子(紫外光、青色光、緑色光、明暗受容体遺伝子)をクローニングし、発現部位や季節変動を知るための定量PCR系を確立した。現在、同定した各種の光受容体遺伝子の発現について、脳の様々な領域での周年変動を解析している。 ヤマメの銀化変態が光環境因子に依存するか否かを理解するため、10月に北海道産のヤマメ発眼卵を宮崎大学に導入し、自然日長・水温下で育成した。令和3年の秋に、北海道産の春銀化系統ヤマメが銀化するか否かを、内分泌因子や海水適応能の視点から明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの春銀化系統ヤマメで集積されている内分泌因子の動態を参考に、九州産の秋銀化系統でも同様の内分泌指標をデータ化できた点、秋銀化種苗の冬期における海水適応能を生理学的に評価できた点、各種の光受容体遺伝子の同定とその定量解析系の確立により、銀化に寄与する脳内の光受容部位や受容体遺伝子の季節変動を捉えることが可能となった点などは、当初の計画が概ね順調に進展している表れであり、令和3年度の研究進展に大いに寄与できる成果であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
秋銀化系統で特異的に発現する、または、発現量の差の顕著な光受容タンパク遺伝子群を絞り込み、網膜を含めた脳の各領域における発現分布を定量PCR法により解析する。また、短日化の進行に伴う候補遺伝子群の発現変動を定量的に捉えたい。さらに、脳のどの部位に光受容タンパクが発現するのかを組織学的に解析し、秋銀化の発動に寄与する光受容器官を同定する。 上記の成果から、LED光照射実験に用いる光波長域を考案し、全脳を用いた器官培養系を確立し、LED照射実験を行う。光波長照射後、経時的に光受容器官や光周性因子の発現部位、下垂体、血液を採取し、光受容タンパクや光周性因子、内分泌因子の発現動態を時系列で捉え、秋銀化の発動機構を分子レベルで理解する。また、光波長入力に対する光周性因子の応答や内分泌因子の出力動態から、光波長による銀化誘導のタイミング、誘導に最も効率的な光波長域や光強度を評価し、人為銀化誘導技術へ繋げたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していた学術会議等での口頭発表ができず、次年度使用額が発生した。 コロナ禍が継続する中、学会の開催等も不確定ではあるが、次年度の研究計画やその成果発表に係る経費として、該当助成金を翌年度の助成金と合わせ、有効的、かつ、効率的に予算を活用することが、本研究課題を遂行するにあたり、最善と判断した。
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