2021 Fiscal Year Research-status Report
九州山系ヤマメの秋銀化発動機構の解明と光波長による人為銀化誘導技術の確立
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20K06240
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
内田 勝久 宮崎大学, 農学部, 教授 (50360508)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 銀化 / 光受容体タンパク / 海水適応 / ヤマメ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、九州山系ヤマメの秋銀化現象の生理学的な理解に、“光波長”という新しい視点を導入し、光受容器官や光周性因子(=光波長の入力と媒介)の動態と、銀化に寄与する内分泌因子群の発現動態(=出力)を解析し、秋銀化の発動機構やその海水適応能をを体系的に理解することにある。本年度は九州山系ヤマメと北海道産のヤマメを宮崎県五ヶ瀬町の養殖生け簀において、同一の環境条件(水温、日長)で飼育し、秋における銀化変態の特性、海水適応能を両系統で比較した。また、昨年度に同定した各種光受容体遺伝子の夏から11月までの発現動態を明らかにした。 その結果、九州の種苗においては、10月ごろより銀化個体が出現し、12月には銀化の進行した個体の割合は72%であった。一方、北海道の種苗においては、銀化の進行した個体は0%であった。このことは、南方系と北方系ヤマメの銀化発動には遺伝的差異(系統差)がある可能性がある。 それら2系統のヤマメを海水に直接移行すると、移行後7日目の生残率は、北海道系統は0%(海水移行後2日で全個体が死亡)であったのに対し、九州産ヤマメのそれは約60%であった。同様の海水移行試験を翌年の2月に実施したところ、海水移行後7日目に生存していた個体の割合は、北海道産では20%、九州産では6%であった。従って、秋銀化を示す九州産ヤマメの海水適応能は冬以降低下し、逆に、典型的な春銀化を示す北海道産種苗の海水適応能は、冬期に徐々に高まる可能性が示された。 8月から11月にかけて、九州産ヤマメにおいて、松果体と下垂体における青色系光受容体遺伝子の発現量が徐々に高まった。このことは、青色波長光が秋銀化の発動に関与している可能性がある。今後、北海道種苗においても、秋期や春期における青色受容体の脳内における発現動態を明らかにしたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
九州山系において、春に銀化する北海道種苗を導入し、同一の飼育条件で銀化発動や海水適応能を2系統で比較し、ヤマメの銀化発動には遺伝的な要因が関与することが示された点は、当初計画が順調に進んでいることを示している。また、前年度に単離した各種の光受容体タンパクの定量解析により、秋銀化を示す九州産ヤマメにおいては、松果体や下垂体における青色光受容体遺伝子の発現上昇も認められた。2系統間では、脳内において、青色光を受けとる受容体の発現の差異(発現の有無)により、銀化の発動時期が制御されているという仮説が示され、次年度の計画に反映させたい。 次年度においては、秋期における青色光受容体遺伝子の発現量の比較を2系統間で比較するとともに、両系統の脳組織を用いた網羅的な遺伝子探索により、秋に銀化する九州産ヤマメに特異的に発現する遺伝子群を明らかにしたいと考えている。 一方、青色光をLEDデバイス等で人為的に照射し、銀化誘導を確かめる実験については実施できておらず、当初の実験計画がやや遅れている一面もある。
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Strategy for Future Research Activity |
九州産と北海道産ヤマメの同一条件飼育を次年度の5月まで継続し、両系統の春期における銀化発動の動態、海水適応能の比較を行う。また、これまで採取したサンプルを用いて、銀化に寄与する内分泌因子、海水適応能評価因子を解析し、両系統における秋と春における銀化特性ならびに海水適応能を生理学的に明らかにする。 また、次年度の秋に、両系統の脳組織を用いた網羅的遺伝子探索を行い、秋に銀化する九州産ヤマメに特異的に発現する遺伝子群を明らかにしたい。さらに、これまで得られた知見から、銀化誘導に寄与する光波長を青色に絞り込み、LEDデバイス等で人為的に青色を九州ヤマメに照射し、銀化の誘導や進行を確かめる実験を実施したいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、予定していた国際会議が中止となり、旅費の一部の支出ができなかったため。また、国内学会もリモート対応となり、旅費の実費がかからないケースがあったため。
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