2020 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム編集による効率的なワクチン製造のための培養細胞株樹立の試み
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20K06248
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
河東 康彦 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(南勢), 研究員 (90634220)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ウイルス複製阻害因子 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
魚類のウイルス病対策ではワクチネーションがその主体となっているが、ワクチン単価が高いことからワクチン接種が普及せずに被害が拡大している状況が散見される。マダイイリドウイルス病のワクチンは、病原体をホルマリンで不活化したものであり、抗原量が多いほどワクチン効果が高い傾向がみられるが、魚類培養細胞でのウイルス産生効率が低いため製造コストの上昇につながっている。一方、申請者が実施した先行研究では、培養細胞における何らかの因子によりウイルス複製が阻害されていることが示唆されている。そこで本研究では、培養細胞におけるウイルス複製阻害因子を網羅的な遺伝子発現解析により推定し、その情報を元にゲノム編集技術を利用してウイルス複製阻害因子をノックアウトした細胞株の樹立を試みる。ゲノム編集細胞のウイルス産生量が向上していれば、マダイイリドウイルスの効率的なワクチン製造が可能な培養細胞株として応用が可能となる。今年度はマダイイリドウイルスの培養に用いるイシガキダイ由来細胞(SKF-9)について、ウイルスが増えやすい継代数28の細胞株およびウイルス産生量が低下した継代数103の細胞株を用いて、ウイルス感染細胞のRNA-seqによる網羅的なトランスクリプトーム解析を実施した。発現変動遺伝子のKEGGパスウェイ解析により、ウイルス産生量が低下していた継代数103の細胞では、PI3K-Akt signaling pathwayや免疫応答に関わるChemokine signaling pathwayにおける複数の遺伝子群が有意に変動していた。今後は、これらの遺伝子をゲノム編集によるノックアウトの標的としていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、マダイイリドウイルスの培養に用いるイシガキダイ由来細胞(SKF-9)からゲノムDNAを抽出して、次世代シーケンサーによりドラフトゲノム配列を取得した。この情報に加えて、ウイルス感染細胞および未感染細胞のRNA-seqによる網羅的なトランスクリプトームの情報を用いたマッピング解析により遺伝子領域の予測およびGene Ontologyデータの割当を行った。さらに、この遺伝子領域に対して、ウイルスが増えやすい継代数28の細胞株およびウイルス産生量が低下した継代数103の細胞株のウイルス感染3日後および7日後におけるトランスクリプトームデータの発現変動およびKEGGパスウェイ解析を実施した。その結果、ウイルス産生量が低下していた継代数103の細胞では、PI3K-Akt signaling pathwayや免疫応答に関わるChemokine signaling pathwayにおける複数の遺伝子群が有意に変動していることが明らかとなった。これらの経路にかかわる遺伝子が、次年度に予定しているゲノム編集によるノックアウト試験の標的となることから、おおむね順調に課題が進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ウイルス産生量が低下していた継代数103の細胞で、有意に発現変動していたPI3K-Akt signaling pathwayや免疫応答に関わるChemokine signaling pathwayのうち、発現量が上昇していた遺伝子を対象としてゲノム編集によるノックアウト試験を実施する。ゲノム編集では、CRISPR-Cas9システムおよびドナーベクターを用いた相同組み換えを利用して、標的遺伝子をノックアウトすると同時に抗生物質耐性遺伝子および蛍光遺伝子をノックインする。これにより、抗生物質やセルソーターによるゲノム編集細胞の選別が可能となり、標的遺伝子をノックアウトした細胞株の樹立を目指す。また、異なる遺伝子を個別にノックアウトした細胞株を複数樹立して、ウイルス産生量の変化を比較する必要があることから、まずは効率的にゲノム編集およびノックアウト細胞のスクリーニングが可能な試験系の構築に注力する。
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Causes of Carryover |
ウイルス産生量の比較等、培養細胞を直接取り扱う試験がほとんどなかったために残額が生じた。これらの残額は、次年度におけるゲノム編集関連の試験と合わせて実施する際に使用する予定である。
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