2021 Fiscal Year Research-status Report
日本近海における外国漁船の操業と日本漁船に及ぼす影響の実態分析
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20K06249
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐々木 貴文 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (00518954)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 東シナ海 / 日本海 / 日本漁船 / 外国漁船 / 漁業競合 / 国境 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告年度も、前年度(初年度)に引き続いて新型コロナ感染拡大問題の影響を大きく受け、もっとも重視していた現地調査がほとんど実施できない状況に追い込まれた。感染状況が落ち着いていた時期と場所を見計らって、予定変更のうえ北海道内(道東)での現地調査を実施したものの、得られた情報は限定的なものにとどまった。 ヒアリング調査の対象としている漁業協同組合や漁業会社などの理解を得ながら、少しずつ研究を進めていく必要があったため、報告年度では研究成果の公表や関連資料の蒐集に重点を置いた研究を実施した。具体的には、図書館や文書館等に所蔵されている歴史的な資料の発掘や、これまで蒐集してきた関連資料の再分析をおこない、歴史的な部分についての再評価を実施した。 そして東シナ海関連について体系的に整理し、ここまでの研究成果の公表という位置づけで新書の刊行を目指し、実現させた。すなわちそれが、2021年12月に上梓した『東シナ海-漁民たちの国境紛争』(角川新書)となる。 本書は、東シナ海漁業の近代史から戦後史、「日中漁業協定」の前身である民間協定に関する分析、新「日中漁業協定」が内包する課題、今日の九州・沖縄の漁業経営体の実態など、様々な観点からの分析をおこない、外国漁業との競合関係にある東シナ海漁業について、漁業者の視点を大切にしながら考察したものとなっている。 なお報告年度終盤には、次年度の本格的な現地調査の実施に向けた漁業関係者との連絡も再開しており、調査の具体的な準備を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
引き続き新型コロナ感染拡大問題の影響を受けて、現地調査が十分に実施できなかったものの、研究成果の社会への還元にについては一定の成果があった。具体的には専門書と比較して発行部数が多く、広く目に触れやすい新書(佐々木貴文『東シナ海-漁民たちの国境紛争』角川新書、2021年12月)を刊行することで、本研究課題の成果の一部を広く公表することができた。この新書については、「時事ドットコム」(2021年12月16日)、『読売新聞』(2022年1月23日)、『東洋経済』(2022年1月29日号)、『産経新聞』(2022年1月30日)、『琉球新報』(2022年4月17日)など多数に書評等が掲載され、反響も少なくなかった。 これ以外についても、新潮社Foresightから依頼を受け、「『国境産業』日本漁業の危機――『東シナ海』で何が起こっているのか」を執筆するなど、成果の公表という側面から、本研究課題の進捗状況が「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
新たな年度も新型コロナ感染拡大問題の影響があると予想されるが、現地調査の推進を調査対象者の理解を得ながら積極的に模索し、これまでの停滞状態を挽回したいと考えている。 具体的には、日本海側のイカ釣り漁業における外国漁船との競合関係の影響を把握する作業に着手することを考えている。現状では、石川県の小木漁港などでの調査を実施する予定でおり、日本漁船の操業実態はもちろんのこと、イカ釣り漁業の縮小が地域経済に及ぼしている影響や、後継者の確保などの産業存続に与える影響なども把握することを目指している。現地調査の準備として、イカ漁業関連の文献調査も進める。 また有意なデータを得られた場合は、年度中盤以降の学会での報告を検討し、責務を果たしていきたい。加えて、学会誌への投稿準備も進める。
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Causes of Carryover |
現状分析のための現地調査を進める必要があったものの、新型コロナ感染拡大問題の影響を大きく受け、そうした調査がほとんど実施できない状況となった。感染が落ち着いていた時期には、予定変更のうえ北海道内での現地調査を実施したものの、調査計画からは乖離した結果となり、旅費の執行にも影響があった。 次年度は、新型コロナ感染拡大の推移をみつつ、可能な限り現地調査が実施できるよう調整を進める予定としている。
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