2020 Fiscal Year Research-status Report
Plant Breeders' Right and Institutional Settings of Agricultural R&D
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20K06250
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
齋藤 陽子 北海道大学, 農学研究院, 講師 (30520796)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 植物育成者権 / UPOV / PBRデータ / 差の差分析 / パネルデータ分析 / 介入効果 / 公共財 / 研究開発投資 |
Outline of Annual Research Achievements |
知的財産制度は,研究開発投資の促進並びに研究成果やイノベーションの創出において重要な役割を果たす.更に,研究開発で生み出される技術知識は公共財の特徴を持つことから,外部性(スピルオーバー)を持つことが知られ,その把握は研究開発の制度設計に資する情報を提供する.植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV)の1991の改正により育成者権が拡大したことで,小麦などの自殖性作物についても知的財産制度による品種保護が可能となってきた.具体的な事例として,End point royalty (以下,EPR)というロイヤリティ回収制度が知られ,その導入は育種による新たな収入源の確保につながる. 本研究では欧州の小麦品種登録を対象に分析を試みる.具体的には欧州を対象に、新たな育成者権保護制度(補償金制度)の導入効果を差の差分析から明らかにする。欧州では、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンにおいて、補償金制度が導入されており、比較的高い回収率を維持している。差の差分析では、自国の登録数に対する補償金制度のインパクトを推定し、①自国への登録数が有意に増加すること、②他国からの登録数については減少すること、を明らかにした。②については、予想に反する結果となったが、自国の前年までの登録数が負で有意となったことから、国境を越えて登録しようとする際、登録先国に登録品種数が多い場合、市場が競争的であると予想されることで、必ずしも登録数が増加しない結果となったと考えられる。尚、国特有の効果を考慮する固定効果を入れたモデルであり、平行トレンドを加えた場合でも、結果は変化しなかった。知的財産制度は研究開発やイノベーションを誘発する制度として注目され,小麦輸出国を中心に育成者権を強化する新制度の導入が進むことから、引き続きその効果を分析していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、欧州や米国を対象に、新たな育成者保護制度の現地調査を予定していた。調査予定先へのアポイントメントを取り始めた時点で、出入国が規制された結果、現地調査を延期せざるを得なかった。
研究計画については、現地の研究者とメールのやりとりによって、ある程度カバーされているものの、制度の詳細については、ウェブページ以上の情報を得ることが難しく、分かる範囲内での分析に留まらざるを得ない状況が続いている。引き続き、現地研究者との交流を続けながら、制度の詳細を理解し、分析に反映させていく予定であるが、現地研究者との関係が未構築である場合は、制度設計の詳細まで知ることが難しいことが予想される。
こうした理由から、現在の進捗状況はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
現地調査の実現可能性については、引き続き調査予定国の状況を注視していく。同時に、現地の研究者とのコミュニケーションも継続し、欧州や北米の制度設計について詳細に調べていく。また、欧州調査を優先しているが、研究期間中、北米での調査も予定していることから、渡航可能な国を優先し、調査準備を進める。 ただし、調査が難しい場合も予想し、各国の植物育成者権データを収集し分析は進める予定である。幸い、UPOVデータは広く一般に公開されたデータでもあることから、稲など、他の自殖性作物についても分析を試みるなど、現在の状況でも可能な限り分析は進めていく。
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Causes of Carryover |
海外調査を予定していたが、渡航自粛と現地状況の悪化をうけ、調査をとりやめたため、旅費や調査用資材の購入(物品費)を次年度使用とした。渡航自粛は続くが、現地の状況と合わせて、今年度の調査に向けて準備を進めていく。具体的には、昨年度計画していたイギリスとフランスでの調査に加え、スウェーデンやイタリアでの調査可能性も検討していく。ただし、調査が難しい場合は、現地の研究者とのコミュニケーションを密にし、欧州各国の制度について詳細を調べる。また、アメリカでの調査も予定していることから、渡航可能な国への調査を優先して進めるなど、ポスト・コロナに合わせた柔軟な調査計画とする。
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