2020 Fiscal Year Research-status Report
活性汚泥微生物群のバイオガス中の硫化水素の除去能力の解明
Project/Area Number |
20K06306
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
山岡 賢 琉球大学, 農学部, 教授 (70373222)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | メタン発酵 / 硫化水素 / 脱硫 / 汚泥 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、農業集落排水施設に併設される小規模なメタン発酵施設向けのバイオガス中の硫化水素の除去技術の開発に向けて,基礎諸元となる活性汚泥による硫化水素の分解・除去能力を明らかにするものである。令和2年度は,別途実施しているメタン発酵の室内実験からバイオガスの提供を受けて、集落排水施設から採取した汚泥に接触させて、吸着量を室内実験で測定した。具体的には、汚泥を充填した内径50mmの円筒容器に、バイオガス100mlを注入した。その後、一定時間をおいて、円筒容器中のバイオガスを回収して硫化水素濃度を測定した。なお、円筒容器は、バイオガスを注入すると、同量の汚泥が押し出されて容器内の気圧はほぼ大気圧に保たれる仕組みになっている。実験は24℃の恒温実験室で実施した。バイオガスの回収は、10分後、30分後、60分後に行った。回収したバイオガスの硫化水素濃度は、円筒容器に注入前が800ppmに対して、560ppm、360ppm、164ppmと低下した。比較のため、同様の実験を、汚泥に代えて純水を用いて実施したが、回収した硫化水素濃度は、汚泥の場合とほぼ同様の傾向であった。硫化水素は水への溶解度が大きいとされるが、多量の浮遊物を有する汚泥においても同様に溶解することが確認できた。 小規模施設でのバイオガス中の硫化水素の除去技術として、酸化鉄を主成分とする接触剤を用いた乾式法が主体となっている。同法の現状を把握することは、本研究が目指す小規模なメタン発酵施設向けのバイオガス中の硫化水素の除去技術の開発上の課題を明らかにできると考えて、既存のメタン発酵施設に、乾式法の維持管理費や接触剤の交換作業内容などを聞き取り調査した。同調査結果は、令和3年8月の農業農村工学会大会講演会に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度当初から、コロナウィルス感染防止のための緊急事態宣言が発出されるなどしたため、現地調査を控えたり、在宅勤務を命じられ、室内実験の時間が限られるなどした。このため、やむを得ず、一部の調査、実験を先送りした。これらにより、幾分の遅れは否めない。また、学会も中止やオンライン開催となり、令和2年度研究費の執行も無駄にならないためできるだけできるだけ控えた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、汚泥に溶解した硫化水素に対する汚泥を構成する微生物の分解、無害化の作用を明らかにするため嫌気性ろ床槽を有する集落排水施設において調査する。嫌気性ろ床槽を有する集落排水施設では、嫌気性ろ床槽で生成する硫化水素による電子基板の腐食が問題になっている。嫌気性ろ床槽は、メタン発酵槽と同様に、嫌気性微生物により有機物を分解する働きを有するが、メタンや硫化水素を積極的に発生させるものではない。しかし、嫌気性ろ床槽で副反応として不可避的に硫化水素が発生しており,そのメカニズムはメタン発酵槽と同様である。嫌気性ろ床槽内では排水中で硫化水素が発生するので、嫌気性ろ床槽から放出された硫化水素が施設内の電子基板を腐食していることは、嫌気性ろ床槽内の排水には硫化水素が飽和溶存濃度近くまで溶解していること、また、施設の処理水で硫化水素による害が報告されていないことから嫌気性ろ床槽の後段に設けられている接触曝気槽の好気性微生物の反応で硫化水素の分解・無害化が行われていると仮説される。このため、嫌気性ろ床槽内及び接触曝気槽内の排水に溶解している硫化水素濃度をモニタリングすることで、硫化水素の分解、無害化の作用の把握を目指す。 令和2年度実施した既存のメタン発酵施設での乾式法の維持管理費や接触剤の交換作業内容などの聞き取り調査は、農業農村工学会大会講演会で口頭発表を行い、小規模施設でのバイオガス中の硫化水素の除去技術の開発方向について議論する。令和4年度は、集落排水汚泥のpHや溶存酸素の条件による硫化水素の吸着量の変化を調査し、過年度得られた集落排水汚泥によるバイオガス中の硫化水素の吸着・分解(無害化)の能力を基に、農業集落排水施設での硫化水素除去システムの構想を取りまとめるとともに施設規模を試算する。また、これら得られた成果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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Causes of Carryover |
令和2年度は当初から、コロナウィルス感染防止のための緊急事態宣言が発出されるなどしたため、現地調査を控えたり、在宅勤務を命じられ室内実験の時間が限られるなどした。このため、やむを得ず、一部の調査、実験を先送りした。また、学会も延期・中止やオンライン開催になるなどした。このため、無駄な予算執行を控えるため、実施が確実な調査・実験に限定して予算の執行を行った。 今年度は、ワクチン接種の普及などにより研究活動が見通せるので、昨年度購入を見送っていた物品の購入を進めるととも、硫化水素濃度の分析の外注や先行研究の調査の一環とした先出願の調査は弁理士事務所に依頼するなど研究費の有効活用して、効率的な研究の推進に努めたい。
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