2020 Fiscal Year Research-status Report
耕作放棄地の生態系機能を検証する-害虫抑制効果の解明-
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20K06340
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
岸本 圭子 新潟大学, 佐渡自然共生科学センター, 准教授 (80525692)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 耕作放棄地 / 水田生態系 / 天敵群集 / 生態系機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は放棄地を適切に管理することで生態系機能を高め、周辺の耕作地に正の波及効果をもたらすとの仮説を立て、天敵の害虫量の抑制に対する効果を解明することで、それを検証する。1年目は計画通り野外調査を中心に実施した。佐渡市内の棚田で遷移段階および管理手法の異なる放棄地や、それに隣接する耕作中の水田、放棄地に囲まれていない耕作中の水田など複数地点を調査地として選んだ。それぞれの畦畔上で、スィーピング法およびピットフォールトラップを使った定量的調査を行った。調査は作付けから収穫直後まで5回行った。1年目は主に前者の手法で捕獲した植物上の徘徊性・造網性クモ類および後者で捕獲した地表徘徊性のクモ類を対象にした。それぞれのクモ類の個体数を目的変数に、隣接する放棄地の有無や、森林までの距離などの景観に関する情報と、草刈頻度や、草丈、水分状況などの局所的な環境要因に関する情報を説明変数として、GLM解析を行った結果、放棄地の有無、周囲の放棄地率、森林までの距離、草刈回数など複数の要因がクモ類の個体数と関係していることが示された。特に、植物上のクモ類では、放棄地が隣接している圃場や放棄地割合が高くなるほど個体数が多くなる傾向がみられた。同時に、放棄地の状態(湿性・乾性)によってクモ類の個体数は有意に異なることが明らかになり、放棄地内部も遷移が進まない程度に草刈をする必要があると考えられた。また、年間草刈回数が2回で植物上のクモ類個体数が最大になり、高頻度の草刈回数(年に5, 6回)では他の回数より低くなる傾向がみられたことから、草刈回数が多いと天敵量を減らす可能性が示唆された。害虫量の定量調査に関しては、野外で調査を実施したものの農薬で個体数が抑えられており、量的な傾向を見ることはできず、害虫相を解明するに留まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一部の現地調査は計画通り進み、少なくとも天敵のクモ類において放棄地が隣接することで耕作中の水田のクモ類の個体数が高くなること、草刈回数を減らしたほうがクモ類の個体数を高く維持できることを示唆する結果が得られた。しかし、コロナ禍で、共同で研究を進める予定であった学生の野外調査活動および実験室での活動が限られてしまったため、調査対象地域が当初計画していたより限定されてしまった。また、同じ理由により、クモ類の種分類も着手できなかったことから、放棄地から耕作地への移動パターンや個体数が多くなるメカニズムの解明には至らなかった。2年目以降、調査対象地域を広げていくとともに、天敵相の種分類も行い、放棄地で個体数が増えるメカニズムを考察する材料を増やす必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
計画では、1, 2年目に野外調査を行う予定であったが、コロナ感染拡大状況によっては2年目も研究活動が制限されることが予想される。特に、1年目は、調査人数が限られてしまったため、調査地域を広げることができなかった。そこで、予定していた調査地域で調査を実施するために、野外調査を2年目、3年目に分散して行う。2年目野外調査を減らした分を、3年目以降に予定していたDNAバーコーディングによる捕食者群の食性分析の予備実験を進める。食性分析は、1年目で集めたクモのサンプルをもちいる。
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Causes of Carryover |
コロナ感染拡大によって1年目の野外・研究室での活動が制限されたため、予備実験に使う予定だったサンプル処理が順調に進まず、試料保管道具および機器の購入に遅れが生じた。2年目もコロナ感染拡大状況によって1年目同様活動が制限されるものと予想し、3年目で行う予定だった実験を2年目に行い、2年目に行う野外調査を分散させて3年目にも引き続き行う計画である。2年目は、野外調査で使用する採集道具、集められたサンプルを処理するための道具に加えて、捕食者群の食性分析を行うためのサンプル処理道具・試薬なども合わせて購入する。旅費は資料収集、佐渡島内での野外調査実施たのために支出する。また、1年目に集まった膨大なサンプルの一部が上述した活動制限を受けて処理できていないため、引き続き昆虫のサンプル処理に慣れた補助者を雇用する。給料は大学の規定に従う。
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Remarks |
里山農業の未来デザインシンポジウム2021(2021年3月21日開催)で結果の一部を発表。 題目「省力型エコロジカル農法の探究」演者:岸本圭子
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