2021 Fiscal Year Research-status Report
原発事故帰還困難区域で飼育されている牛の健康状態ならびに食肉の安全性に関する評価
Project/Area Number |
20K06357
|
Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
佐藤 至 岩手大学, 農学部, 教授 (60225919)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 被曝 / 牛 / 福島第一原発 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年11月に定期調査を行い,3か所の対象農場で牛の採血(計73頭)と空間線量の測定を行なった。空間線量率は高線量牧場では約10μSv/h,2ヶ所の低線量牧場ではいずれも1μSv/h未満であった。血中放射性セシウム濃度は高線量牧場で平均78 Bq/kg,低線量牧場で2.9 Bq/kgおよび2.8 Bq/kgで,2020年9月の測定値の約6割に低下していたが,これは体内セシウム濃度の季節変動が主な要因である。血球数検査では高リンパ球(>10,000/µl)が3頭に見られたが,線量との関係はなかった。一方貧血傾向が8頭に見られ,うち7頭が低線量牧場であった。血液生化学検査において肝機能の低下,腎機能の低下,またはルーメンの発酵不良を示唆する結果が複数の個体に認められ,経過観察が必要と考えられた。 2022年1月に畜主の事情により低線量牧場の牛6頭を安楽殺したため,甲状腺の病理学的検査ならびに血液および筋肉の放射性セシウムの測定を行なった。筋肉中の放射性セシウム濃度は全て100 Bq/kg未満であり,また冬季で非汚染飼料給与中であったため,放射性セシウムの筋肉/血液比は24.9±2.9とやや高めであった。甲状腺の病理学的検査の結果1頭に甲状腺腫が認められた。 緊急調査は1回行い,高線量牧場の牛1頭を剖検した結果リンパ腫と診断された。この他高線量牧場の牛2頭が死亡したが,剖検することはできなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
牛からの採血や空間線量の測定を行う定期調査は春と秋の年2回を予定していたものの,新型コロナウィルス感染症慢延防止措置のため現地に入ることがなかなかできず,11月に1回しか実施できなかった。しかし,採取した血液については予定どおり生化学的検査,血球数検査,塗抹検査,および放射性セシウムの測定を行ない,牛の状態を把握した。 体調に異常を呈した牛が出た場合に行う緊急調査の実施回数は予定されていないが,昨年度は1回行い,リンパ腫と診断することができた。しかし,現地入りができずに剖検を断念したものが1例,死後に発見され剖検できなかったものが1例あった。 このように,新型コロナウィルス感染症の影響により予定よりも調査回数が少なくなっているものの,研究に大きな支障は生じていない。
|
Strategy for Future Research Activity |
計画どおり今年も年2回の定期調査を行うとともに,異常牛が発生した場合には緊急調査(剖検等)を行い,データを蓄積する。緊急調査についてはあらかじめ予定を立てることができないため実施できないこともあるが,可能な限り早期の異常発見と連絡を畜主にお願いし,異常牛の原因究明に努める。ただし,新型コロナウィルス感染症の蔓延により県外移動が制限された場合などは,それに従って調査の時期を移動し,あるいは回数を減らさざるを得ない場合もある。
|
Causes of Carryover |
定期調査回数が減ったことにより,旅費等の使用が少なくなったため。 少額であるため次年度分と合わせて使用する。
|