2020 Fiscal Year Research-status Report
4種の原始卵胞数増加モデルの卵胞形成と維持の分子機構解明と体外卵子作出系の高度化
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20K06374
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
木村 直子 山形大学, 農学部, 教授 (70361277)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 原始卵胞 / 卵巣 / 生殖能 / 生殖寿命 / 新生仔 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の前半では、出生直後の仔体内の生理的変化に注目して開発した4種の原始卵胞数増加モデルマウスについて、新生仔初期卵巣の形態学的および分子学的解析と、生涯の生殖能を評価を行い、原始卵胞の形成促進と維持に重要な卵巣内の形態学的特徴、その制御に関わる主要分子とその経路の解明を目指している。2020年度は、以下1~3の結果を得ている。 1.生涯の生殖能と原始卵胞数を高く維持するD11投与モデルでは、修正直後のシスト内優勢卵母細胞数に増加傾向がみられ、卵胞形成過程での卵母細胞の生存性の向上によって卵胞数が増加したことが考えられた。 2.合成グルココルチコイド(DEX)あるいはTNF-αリガンド阻害剤(IFX)の投与モデルでは、出生直後に原始卵胞数が増加したにも関わらず、2ヶ月齢と6カ月齢での生殖能に顕著な向上はみられなかった。性成熟後の卵巣内卵胞数の評価から、新生仔期に顕著に増加した原始卵胞数は、性成熟後までに対照区と差が縮小することが明らかとなった。 3.新生仔期の卵巣体積と原始卵胞面積の比較から、生涯の生殖能と原始卵胞数を高く維持するD11投与モデルは、対照区と比較し、卵巣体積に差はないものの、原始卵胞のサイズが減少傾向にあり、これらが原始卵胞数の維持に関与しているものと考えられた。一方、IFX投与モデルでは卵巣体積が増加していた。 以上の結果から、投与モデル間で原始卵胞形成後の卵胞維持能が異なり、それらが生涯生殖能に影響を及ぼしているものと考えられた。今後、原始卵胞から卵胞発育へのリクルートあるいはリクルート抑制に関わるシグナル伝達(PI3K/Akt,Hippoなど)の発現動態と、それらの制御因子に注目し、モデル間で比較解析を進める。また新生仔期の卵巣器官培養系で、生体投与と同様の効果がみられるかの検証を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由で、計画に沿った遂行により一定の成果を得て、また2021年度度実施予定の試験も一部前倒しで実施しており、順調に進展しているものと認識している。 1.2020年度実施予定の「1.4種の原始卵胞数増加モデル卵巣の分子マーカーによる形態学的解析と生殖能の評価」は現在も解析は継続中である。D11投与モデルでは、ゴルジ体タンパク質によるバルビアニ体数からシスト内優勢卵母細胞数の増加傾向、アポトーシスの指標となすPARP1の出現頻度やDNA損傷マーカーγH2AXの発現量が低下傾向、皮質側卵母細胞の小型化傾向など、原始卵胞の増加やその後の維持に必要な要件がいくつか明らかにされている。Dex投与区では、アポトーシスマーカーに顕著な変化はみられないものの体細胞分裂の増殖マーカーPCNAの発現量が顕著に増加しており、卵巣内の体細胞の増殖能の上昇が示唆されている。一方、各投与モデルでの長期間の生殖能評価試験は概ね終了しており、D11投与モデルとxCTKOモデルのみが、老齢個体でも生殖能や原始卵胞数が、対照区より高く維持されることを明らかにしている。 2.2020年~2021年度実施予定の「2.原始卵胞の形成促進と維持に関わる主要な分子と経路の特定、生体制御による検証」は、2021年度前半にD11投与区と対照区でRNAシーケンス解析を実施するために委託業者とサンプル調整を進めている。 3.2021年度実施予定の「3.周産期の仔の卵巣器官培養系における原始卵胞数の形成能と維持能の向上」は、一部前倒して2020年度に実施し、新生仔卵巣で3日間のD11添加培養により、原始卵胞数が顕著に増加することを明らかにし、現在、10日培養後に得られた二次卵胞以降の培養系を構築中である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.原始卵胞の形成促進と維持に関わる主要な分子と経路の特定、生体制御による検証 2020年度の研究結果から、4種のモデル間で、原始卵胞の形成促進後の維持機構に差異があることが推察され、それらは卵胞形成過程から生じているのか詳細は不明であった。原始卵胞から一次卵胞へのリクルート促進にはPI3K/Akt/Foxo3a経路の活性化(PI3Kの抑制PTEN、促進CDC42など)の関与、これらの経路の抑制にはHippoシグナルの活性化などが報告されている。今後、実験計画2にあるように、まず既知シグナル伝達系の発現動態をモデル間で比較解析することで、各モデルで優勢因子を明らかにし、それらと卵母細胞あるいは体細胞の分化能や増殖能、卵胞形成との関わりを明らかにする。これらを効率的に検証するためにRNAシーケンス解析を利用する。 2.原始卵胞の維持制御が可能な培養条件の構築 生体と同様に原始卵胞を維持できる培養系が構築できれば、移植した際に卵巣内で長期的に維持できる可能性も考えられ、移植の意義を高められることが考えられた。実験計画3のように、生体で効果のみられた薬剤を培養系で卵胞形成能と維持能の効果を検証するとともに、二次卵胞へ発育したものについては、卵胞培養系に切り替え、体外成熟、受精を経て産仔の生産効率を評価する。また本研究の新たな応用展開として、器官培養後の新生仔卵巣を老齢個体へ移植した際の寿命や機能回復などの検証も視野に入れ、まず移植方法の立ち上げを行いたい。
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Causes of Carryover |
・2020年度は、コロナ感染防止の観点から、一時的に実験の遂行を停止する場面が生じ、物品費や旅費の執行が少なくなった。 ・2021年度は、外部委託の解析を予定しており、当初の年度使用額より高くなる予定。2020年度分と2021年度分を併せて使用計画を立てている。
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Research Products
(4 results)