2020 Fiscal Year Research-status Report
日本トキ集団の遺伝的多様性の評価・管理システムの構築
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20K06377
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 幸雄 京都大学, 農学研究科, 准教授 (10252496)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 宜永 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40253207)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 希少動物の保全 / 遺伝的多様性 / トキ / ゲノム / DNA多型マーカー / マーカー型タイピング / 次世代シークエンサー / multiplex-PCR |
Outline of Annual Research Achievements |
希少動物であるトキの保全においては、集団の遺伝的多様性の維持が求められる。このような遺伝的管理の実現には、多数のDNA多型マーカー(一塩基多型:SNPおよび短鎖反復配列多型:STR)を利用した遺伝的多様性評価法の開発が必須である。また、免疫系で中心的な役割を持つ主要組織適合遺伝子複合体(MHC)領域の多様性は、集団の生存性に関わる指標として重要視されている。日本トキ集団は、中国から寄贈された5個体を始祖として形成されてきたが、2018年に新たに2個体が導入された。新規2個体の導入による影響を評価するためには、新規個体のゲノム情報を調査し、それらを考慮した評価法を樹立する必要がある。 本研究では、新規の始祖2個体のゲノムをサンプルとして、Reduced representation library(RRL)と次世代シークエンサー(NGS)を組合わせた手法を実施し、既存の始祖5個体について同様に取得したデータと統合してSNP候補を検出するとともに、新規始祖2個体特異的アリルを203個と485個を検出した。 MHC領域の多様性については、既に始祖7個体ではMHCクラスII領域のハプロタイプが4種類(HP1-4)であることを明らかにしており、今回、MHCクラスII領域近傍のMHCクラスI遺伝子(UAA)を含む領域のハプロタイプの解析を実施した。その結果、UAA遺伝子座には2アリル(UAA01とUAA02)が存在し、HP1に対してはUAA01とUAA02が検出されたが、HP2とHP4はUAA02と、HP3はUAA01と連鎖しており、全体でのハプロタイプ数が5であることを示された。 上記の解析で得られた全マーカーの遺伝子型およびMHCハプロタイプ型情報を用いて始祖7個体間の遺伝的関係を解析した結果、新規始祖個体のうち1羽が従来の始祖個体と遺伝的に大きく離れていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年に導入された新規始祖2個体のゲノムDNAをサンプルとしたReduced representation library(RRL)/次世代シークエンサー(NGS)法が実施され、始祖集団におけるSNP候補の検出とともに、各始祖個体のSNP候補の遺伝子型データが得られた。さらに、新規始祖特異的なアリルを持つSNP候補の検出も達成された。 また、MHC領域の多様性についても、MHCクラスII領域とMHCクラスI遺伝子(UAA)を含むより広範囲に渡るMHC領域のハプロタイプの解析が実施され、新規2個体を加えた始祖7個体において、そのハプロタイプ数が5種類であることが明らかにされた。 RRL/NGS法で得られた全SNP候補の遺伝子型データおよびMHCハプロタイプ型情報を用いた始祖7個体間の遺伝的関係についても結果を得ることができた。 このように、今年度に計画されていた研究はほぼ達成されたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、日本トキ集団に有効な約200のDNA多型マーカー(SNPおよびSTR)の遺伝子型を判定する新規の手法として、multiplex-PCRとNGSを組み合わせた新規のタイピング法の開発を進めてきた。これまでのタイピング法の開発は、従来の始祖5個体から得られたDNA多型マーカーのみを対象としていたため、始祖個体が7羽に増加したことに対応する必要がある。そこで、初年度に検出した新規始祖2個体に特異的なマーカーおよび新規MHCハプロタイプを判別するプライマーを追加し、約300のDNA多型マーカーをタイピングするmultiplex-PCR反応系を再構築する。新たな反応系を用いて、新規始祖2個体と数組の親子ペアのゲノムDNAをサンプルとしてmultiplex-PCR/NGS法によるタイピングを実施する。さらに、NGSによる配列データ取得において、各マーカーのデータ量が均一となるようにmultiplex-PCRの条件を再調整し最適化を図る。NGSで得られた配列データの解析法についても、エラーデータの削除やマーカー型判定基準の設定など、最適な手法について検討し、マーカー型タイピング法を確立する。 最適化されたmultiplex-PCR/NGS法を用いて、飼育下にあり比較的血縁の遠いトキ集団に対しタイピングを実施する。得られた遺伝子型データを始祖集団のものと比較し、遺伝的多様性の経時変化について調査する。さらに、現在のトキ飼育集団の状況を踏まえ、遺伝的多様性維持に向けた交配計画へのタイピングデータの利用法について検討する。 これまでの一連の研究を統合し、多くの希少動物の保全に応用可能な「ゲノム情報に基づく遺伝的多様性の評価・管理システムの構築」の標準的プロトコールとして提示する。
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