2021 Fiscal Year Research-status Report
抗菌ペプチド「ナイシン」とエタノールを組み合わせた抗菌剤の開発とその作用機構解析
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20K06382
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
川井 泰 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (00261496)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 抗菌ペプチド / ナイシン / エタノール / 自己耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
抗菌ペプチドであるナイシンを生産する乳酸球菌(Lactococcus lactis subsp. lactis)は、ナイシン生産と共にナイシンから自身を保護する耐性機構(自己耐性タンパク質およびペプチド)を有している。これまでに本研究では低濃度(20%)のエタノール・ナイシン溶液でも大腸菌や乳酸菌、とくにナイシン生産乳酸菌株(Lc. lactis subsp. lactis NBRC12007)に対して相乗効果を有することを見出してきたが、自己耐性因子に対するエタノールの影響については一切不明であった。 自己耐性因子の一つであるNisIは指標菌細胞膜に接近するナイシンを捕捉(付着)し、NisF、NisE、およびNisGによる複合体がトランスポーターとしてナイシンを菌体外へ排出する機構が知られている。さらに、ナイシンの生産はNisKを含む三成分制御系により制御されており、NisKは菌体外のナイシンを認識(付着)し、レスポンスレギュレーターであるNisRにリン酸を受け渡す機能を担っている(その後、リン酸化されたNisRは、nisオペロンの転写活性を促進し、結果としてナイシン生産が向上する)。 そこで今回は、自己耐性機構を担う、もしくは担うと推定される前述の各因子(NisF、NisE、およびNisG)単独発現株を構築し、エタノール・ナイシン溶液に対する抗菌効果について検証を試みた。その結果、NisI、NisFEG、およびNisKの各単独発現株の取得に成功し、特にNisK発現株がNisIに匹敵するナイシン耐性機構を有することを初めて見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自己耐性機構を担う、もしくは推定される各因子(3種:NisI、NisFEG、およびNisK)発現株の構築に成功し、ナイシンに対する耐性効果を明らかにしたが、主目的であるエタノール・ナイシン溶液に対する抗菌化効果の検証までには至らなかった。また、予備検討ではエタノールの濃度設定も重要であることが示唆されたことから、最終年度では各種のパラメータを設定し、検証を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で構築したナイシンに対する自己耐性ペプチドおよびタンパク質(3種:NisI、NisFEG、およびNisK)発現株を用いて、エタノール・ナイシン溶液に対する抗菌化効果の詳細な検討を行う。とくに今回、ナイシンを感知してナイシンの生産を向上させる、初段階の付着を担うNisK発現株がナイシン耐性を示したことから、エタノール・ナイシン溶液の抗菌効果の検証と共に、ナイシンの菌体への付着強度についても可能な限り検討を行う予定である。 また、グラム陽性菌であるバチルス属に対してエタノールの殺菌効果が低下することが知られており、本エタノール・ナイシン溶液の効果と優位性の有無について検証を試みる。
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Causes of Carryover |
予定していたナイシン耐性因子等の遺伝子導入株の取得は順調に進んだが、予定期間内にナイシン付着能等の各種試験遂行までには至らず、本計画に準じた予算執行(物品費)の差額が次年度使用額(309,668円)となった。 今年度(令和4年度)は、エタノール・ナイシン溶液のナイシン耐性遺伝子導入株およびバチルス属細菌に対する抗菌スペクトルの測定、噴霧試験および浸漬試験の各種結果から実用化の最終検証を行う予定である。
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