2021 Fiscal Year Research-status Report
ミクログリアの活性化に着目したフラビウイルス性脳炎の発症機構の解明
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20K06406
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 進太郎 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (00634205)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フラビウイルス / ミクログリア / 脳炎 / DAM |
Outline of Annual Research Achievements |
脳内の免疫細胞であるミクログリアは変性した神経細胞に由来する分子スイッチ因子によって神経保護と神経傷害の両タイプの作用を示し、そのバランスが病態形成に重要である。 世界中で流行し、人獣共通感染症の原因となるフラビウイルスの感染によって起こるフラビウイルス性脳炎の病態形成機構の解明のために、神経向性フラビウイルス感染により産生される神経保護または神経傷害型ミクログリアへの活性化を促す分子スイッチ因子を特定し、活性化ミクログリアの脳炎病態における役割を明らかにする。これらにより、フラビウイルス性脳炎発症機構における活性化ミクログリアの重要性を明らかにし、治療法開発のための基盤形成を目指す。 神経向性フラビウイルスであるウエストナイルウイルス(WNV)が感染したマウスの脳組織を用いた免疫組織学的解析で、WNVの感染によりIba1やTMEM119などの一般的なミクログリアマーカー陽性細胞数が増加し、またその形態も変化することが明らかになった。ミクログリアマーカー陽性細胞の細胞集団にはマーカーの発現が異なる細胞が含まれており、マーカーの発現が強い細胞はウイルス抗原陽性細胞の遠くに、弱い細胞は近傍に観察された。また、ミクログリアマーカーの発現が弱い細胞はDisease-associated microglia (DAM)のマーカーであるCD11c/ITGAX陽性であった。 DAMの機能的な解析は進んでおらず、今後はDAMのWNV感染に対する役割や機能の解析および、ミクログリアの培養系を用いてDAMへの分化の分子機構について明らかにする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では当該年度までにウイルス感染によるミクログリアの活性化に関わるウイルス因子および宿主因子を特定する予定であったが、計画した変異導入ウイルスを用いた解析ではウイルス因子の特定が困難であった。そこでウイルス感染マウスの脳組織を各種ミクログリアマーカーを用いて病理組織学的に詳細に解析することで、WNV感染で活性化されるミクログリアのサブタイプの特定、その細胞の脳炎病態形成における機能的解析や活性化の分子機構の解明を目指すこととした。 当該年度の研究により、WNVを接種したマウスの脳内でミクログリアが活性化されること、ウイルスに感染した細胞の近傍にDAMと呼ばれるサブタイプのミクログリアが局在することが明らかになった。脳炎病態が形成された組織において検出されたDAMは、その病態形成に重要な役割を果たすことが示唆される。これらの結果は、次年度の研究計画にのための重要な知見であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
特定したDAMに着目して、脳炎病態形成における機能やWNV感染による活性化の分子機構の解明を目指す。 DAMはウイルスが感染した脳組織において、ウイルス抗原陽性細胞の近傍に局在することから、ウイルス感染神経細胞に作用して、脳炎病態形成に関わることが予想される。DAMの脳炎病態形成における機能を明らかにするために、WNVを接種したマウスの脳組織からマイクロビーズ法などを用いてCD11c陽性細胞を分離し、遺伝子発現を網羅的に解析する。また、分離した細胞を培養し、細胞上清中に放出される炎症性サイトカインやケモカインを中心にELISAや質量分析法などを用いて解析する。 また、DAMはウイルスを接種していないマウスの脳内ではほとんど観察されないことから、ウイルスに感染した神経細胞の宿主因子の発現変化がDAMへの分化に重要であると考えられる。これまでの報告を元にDAMの分化に関与する宿主因子の候補を絞り、DAMの近傍に局在する神経細胞におけるこれらの宿主因子の発現を免疫染色により解析することで、WNV感染によるDAMへの分化の分子機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症のために、研究に必要な物品の購入が滞り、また当初計画とは異なり、学会のオンライン開催への変更や中止により、旅費の使用がなかったために次年度使用額が生じた。これらは主に物品費として使用する予定である。
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Research Products
(15 results)