2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K06444
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
岩澤 淳 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90242742)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ニワトリ / 糖新生 / 卵黄 / ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
鳥類の胚は,卵黄と卵白だけを栄養源として育つ。顕著な高血糖動物である鳥類は,すでに胚期から血糖値が高いが,産卵された卵内の糖質は卵重の約1%と少ないので,高い血糖値の維持には糖新生が不可欠と考えられる。本研究では,鶏胚を対象として卵黄嚢における糖代謝を調べた。卵黄嚢は代表的な代謝臓器である肝臓よりも孵卵期間を通じてはるかに大きい。孵化に備えたエネルギー源として糖を貯蓄する一方で糖を血中に放出して血糖値を高めるというやりくりに際して卵黄嚢が果たす生化学的な役割を解明することを目的とした。令和3年度は前年度に引き続き,主に糖代謝鍵酵素の酵素活性測定と遺伝子発現の定量を行い,特に酵素活性と遺伝子発現の傾向が異なる結果となった酵素について,品種(コマーシャル鶏種)や定量方法を変更して検討し,結果の妥当性を確認した。胚の血糖値は21日間の孵卵期間を通じてゆるやかに上昇を続けるが,品種によって上昇傾向が異なり,孵卵の最終週にいったん平坦になるものがあった。品種によって産卵成績や卵のサイズも異なるので,品種間比較が必要と考えられた。卵黄嚢膜の重量の増加は孵卵初期に見られたあと鈍化し,再び増加して孵卵15-17日目にピークに達してから減少した。また,オキサロ酢酸からピルビン酸に転換する酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼは,ニワトリの各種臓器ではミトコンドリア型の存在が知られているが,卵黄嚢膜ではこれに加えて細胞質型の遺伝子発現と酵素活性が認められた。これは胚期の糖新生に関してかなり複雑な調節が行われていることを示唆している。また,鶏卵に含まれている栄養分には限りがあり,糖新生の原料となるのは主にタンパク質(アミノ酸)である。上記酵素の発現はアミノ酸からの糖新生を可能にするという意味で理にかなっていると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は上の「研究実績の概要」に記した糖代謝酵素の活性と遺伝子発現の定量,糖代謝に関連する血中ホルモン(インスリン,グルカゴン,甲状腺ホルモン)の定量,卵黄嚢の組織培養の検討(細胞解離条件の決定等)を行い,代謝産物の同定のため,GC-MSの実験条件の検討(カラムの選択や固相抽出の検討など)を行った。その結果,糖代謝酵素の活性と遺伝子発現の定量,代表的な代謝産物の測定についてはほぼ完了し,上の項目に記したような,いくつかの新しい知見が得られた。また,孵卵開始時の卵黄にはほとんど含まれていない糖を,糖新生によって合成する活動は,孵卵初期からスタートすることが明らかになった。孵卵期間での酸素呼吸(ガス交換)のしやすさの変化に応じて糖代謝の原料を変えて,胚の血糖値を高めることと孵化に必要なエネルギーを蓄えることの両者の調節が,卵黄嚢膜で行われている様子が明らかになったことで,代謝臓器としての卵黄嚢の重要性が示唆された。これらの知見について,令和4年度に学術論文2報の受理を目指している。また,コマーシャル品種は遺伝的背景が伏せられているものが多いが,令和3年度に行った実験結果では品種差も認められた。このため,ナショナルバイオリソースプロジェクト等が提供している遺伝的背景の明確な系統を用いて系統間での糖代謝の差異を検討し,知られているゲノム情報を参照することで,胚の糖代謝の特徴を浮き彫りにすることができるのではないかと考えた。以上から,令和3年度に関してはおおむね計画通りに研究が進行した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は本研究の最終年度となる。しかし,令和2年度の研究開始が遅れたことの影響で研究期間の延長を予定している。本研究はこれまでほとんど解明されていなかった「発生段階において肝臓が機能する前にはどの臓器が肝臓に代わって代謝を行っているか」を明らかにすることを目指しており,納得できる研究成果を広く学界および社会に公開することを目指す。令和4年度は遺伝的背景の明確な系統を用いて系統間での糖代謝の差異を検討することを主眼にし,遺伝子発現の定量とメタボローム解析を行う。研究期間の延長が認められた場合,令和5年度は卵黄嚢上皮細胞の培養方法を確立し,インスリン等の刺激に対する遺伝子発現の変化を定量的に調べることを計画している。
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Causes of Carryover |
令和3年度にメタボローム解析の外注(高額)を予定していたが,一部を自身で測定することとしたことと,試薬と器具の使用量が予定より少なかったため,経費の次年度使用が生じた。次年度は外注分について使用するとともに,品種間比較のための新たな動物の購入にも充てる。
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Research Products
(1 results)