2020 Fiscal Year Research-status Report
In situエピジェネティクス:分化・発生のH3K27me3機能解析の新戦略
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20K06449
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
新井 大祐 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (20624951)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / エピゲノム編集 / ヒストン修飾 / 細胞分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒストンH3の27番目のリジンのトリメチル化(H3K27me3)によるエピジェネティック制御は分化・発生に伴う遺伝子の使い分けの基盤として重要視されている。しかし、従来の研究ではゲノム上の特定の領域のH3K27me3(in situ H3K27me3)が対応する遺伝子の制御に本当に関与しているのか、重要なのはH3K27me3ではなくPRC2の非触媒性機能ではないか、という問題が放置されていた。本研究では「ゲノム上の特定の領域のH3K27me3の機能解析(in situエピジェネティクス)」の手法を確立し、細胞分化に伴うNodal遺伝子のH3K27me3による制御機構の解明を目指す。本年度の成果は以下の通りである。 1.in situ H3K27me3調節ツール:H3K27me3メチル化酵素PRC2の構成因子であるEZH2、EED、JARID2をdCas9を融合したCRISPR/dCas9発現ベクターを作製した。これをES細胞に一過的に導入し、Nodal遺伝子に対するsgRNAとともに発現させてNodal遺伝子のmRNA発現への影響を調べたところ、抑制効果は認められなかった。一方、dCas9-KRABとの共発現では弱い抑制効果が5日間持続した。転写活性状態にある遺伝子をPRC2単独で十分に抑制することはできないと考えられる。 2.PRC2スイッチES細胞:Ezh1ノックアウト細胞を作出し、さらにこの細胞のEzh2遺伝子にAID(Auxin inducible degron)タグをノックインし、EZH2タンパク質が1時間以内に分解可能であることを確認した。 3.高効率ノックイン技術の開発:ES細胞に対し、非特異的な挿入を抑制しつつ高効率にHDR両アリルノックインする新手法(BiPoD法)を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では初年度においてPRC2スイッチES細胞を完成させる予定だったが、そこまでは至らなかった。一方、当初は想定していなかった高効率ノックイン技術の開発に成功した。両アリルへのノックインは細胞株の作出に必須のステップであるが、従来法では成功率が低く時間を要するものだった。新手法により研究の加速が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
in situ H3K27me3調節ツールについては、dCas9-DNMT3L発現ベクターを作製し、共発現による抑制効果を調べる。また、H3K27me3脱メチル化酵素JMJD3、同アセチル化酵素P300をdCas9を融合した発現ベクターも作製する。またNodal遺伝子の発現状態を1細胞単位でリアルタイムに解析するために、Nodal遺伝子の直下に2A-mCherryタグをノックインしたモニター用細胞を作出し、ツールの効果確認に利用する。PRC2スイッチES細胞については、前年度に作出したEzh1ノックアウト・Ezh2-AID細胞にさらにTet-ON制御可能なEZH2変異体遺伝子を導入し、これを完成させる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスによる職場閉鎖やリモートワーク推進の影響を受け実験が行えず、消耗品の使用が少なくなったことと、学会のオンライン化により旅費の支出がなくなったために、支出額が当初の計画よりかなり少なくなった。繰越予算は受託解析などに積極的に活用し、研究の加速を図る。
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