2020 Fiscal Year Research-status Report
tRNAレパートリー形成のためのtRNA遺伝子の発現制御機構の解明
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20K06490
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
吉久 徹 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60212312)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | tRNA / 転写制御 / 転写因子 / tRNA検出因子 / tRNAレパートリー |
Outline of Annual Research Achievements |
独自に開発した新規tRNA定量法を用いた酵母のtRNAレパートリー解析により、対数増殖期に比べ定常期では全RNAに占めるtRNAの割合が平均2.7倍に増加することが判った。また、発酵培地(グルコース)に対して呼吸培地(グリセロール)では各tRNA種の発現量が0.4~2倍の範囲で増減するが、同じアミノ酸に対応するisoacceptor tRNA間ではminor tRNAが増加する一方でmajor tRNAが減少する傾向が見られ、各tRNA種の量が一定の方向性をもって変化する、即ち、制御されている可能性が示された。この制御におけるtRNA遺伝子(tDNA)の転写の寄与を検討するため、CRISPRi系のsgRNAあるいはRNAi系のshRNAを、tDNAをプロモーターとしてRNA Polymerase III依存に発現させ、それらの標的レポーターの発現抑制によって定量評価する系の構築を行った。1遺伝子あたりの現存量や培養条件に対する量的挙動が異なる3つのtRNA(tRNA-LeuGAG、tRNA-ArgCCG、tRNA-ThrCGU)の遺伝子に融合する形でLacZレポーター遺伝子/mRNAに対するsgRNAあるいはshRNAを発現させたところ、およそ元のtRNAの現存量に対応し、tRNA-LeuGAG遺伝子やtRNA-ArgCCG遺伝子で低く、tRNA-ThrCGU遺伝子で高いレポーター抑制が見られる条件を設定できた。また、tRNA-LeuGAGプロモーターでsgRNAの発現を制御する系では、培地炭素源の違いによるtRNAの現存量変化にほぼ対応したLacZレポーター活性の低下が見られており、この手法を今少し調整することで生理的環境に応じたtDNAの転写状態を簡便にモニタする系が確立できると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に示したとおり、2020年度は培地環境に応じたtRNAの量的変化の分析に加え、tDNAのプロモーター活性を簡便に分析する2つのレポーターシステムの構築におよそ目処を付けることが出来た。これを今少し調整・改良することで、実際の遺伝学的なtRNA発現制御因子探索に向けて解析を進める。実際の探索には至っていない点で、研究の進捗は完全とはいえないが、大きな遅延とは判断しなかった。なお、本研究とは別の研究課題によって、tRNAの量的制御の一部に自食作用が関わっていることが明らかになっており、当初から予想されたことではあるが、tRNAの量的制御には分解の寄与があることを念頭に転写制御の寄与分を正しく見積もりつつ解析を進める必要が確かめられている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は当初計画されていた以下の2項目に関して解析を進める。 [A]tDNA特異的な転写因子の探索として、特定のisoacceptorに対するtDNAの発現制御が異常となる変異株の単離を目指し、2020年度に確立したレポーター系/解析系を利用して、生理条件に依存したtRNAの発現変化が本来とは異なる変異をスクリーニングする。 [B]tRNAの量的制御に関わるセンサー分子探索の第1段階として、既知のtRNA種特異的なtRNA結合因子でかつ核内に存在し、進化的にも保存されている分子と、tRNAの核-細胞質間輸送に着目して研究を進める。まず、こうした特性を持つアミノアシルtRNA合成酵素(ARS)のtDNA転写制御への関与を検討する。事実、ARSは同じアミノ酸をチャージするtRNA群を他と識別でき、真核生物ではその一部が核に存在する。そこで、TyrRSやValRS等のARSについて、核局在に必要なNLSを欠失した変異株を構築し、その変異株における各tRNA量の変化を検討する。次に、tRNAの核-細胞質間ダイナミクスのtRNAの発現制御への影響を検討する。もし細胞が成熟体tRNA量を核内で検知するならば、tRNAの核内輸送は対象分子を核に運ぶために必須となる。tRNAの核-細胞質間分布に影響を与える輸送因子Los1やMtr10などの変異を用いて、tDNAの転写状況がどう変わるか検討する。
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Research Products
(2 results)