2021 Fiscal Year Research-status Report
「化学ケージ結晶化法」による膜タンパク質X線結晶構造解析
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20K06505
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
名倉 淑子 (中田) 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (70799220)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤川 鷹王 京都大学, 高等研究院, 特定研究員 (70839688)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 膜タンパク質 / 化学ケージ / 分子自己集合 / 構造解析 / X線結晶構造解析 / 固定化タグ |
Outline of Annual Research Achievements |
「化学ケージ結晶化法」の方法論確立を目的とし、本研究では、結晶化が非常に困難とされている膜タンパク質のX線結晶構造解析に挑戦する。困難である標的タンパク質の構造解析を成功させることで、化学ケージに膜タンパク質を内包させるという革新的な本法の有用性と汎用性を実証する。実用化のためには克服しなくてはいけない課題がいくつもあり、本年度も引き続き、それらの課題を克服するための方策を模索し、有効な技術の開発と構築に努めた。 研究1:膜タンパク質の機能を保持したままケージに内包する 通常、化学ケージは有機溶媒中において合成され、その環境下において安定であるが、精製した膜タンパク質は水溶液中に存在する。そのため、膜タンパク質が構造や機能を保持できる水溶液中においても安定に自己集合できるよう、化学ケージの改変が必要である。化学ケージをより安定化するために、共有結合によるケージを設計し、骨格となる化学ケージの合成に成功した。これらのケージをもとに、水溶性を高め、十分なサイズを確保するという課題に取り組んでいる。 研究2:ケージ内での膜タンパク質を均一にする X線結晶構造解析を行うには、化学ケージ内に目的のタンパク質を均一な位置に固定しなければならない。前年度は、タンパク質側のタグとリンカーの開発に注力したが、本年度は特に、化学ケージ側のタグとリンカーの開発を中心に進めた。タンパク質発現に広く用いられる既存のタグを用いて化学ケージに固定化できるよう、化学ケージ側のタグについて結合様式の異なるものをいくつか作製した。また、PEGを用いたリンカーによって長さを自由に設計できるようになった。本年度は、それらの化学ケージ側のタグがそれぞれタンパク質側のタグに結合することを確認し、タンパク質と化学ケージをつなぐ手法が大きく展開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在まで、本研究における下記の課題についてそれぞれに進捗があった。 研究1:膜タンパク質の機能を保持したままケージに内包する 化学ケージが水溶液中でも安定に自己集合出来るようにするため、これまでのパラジウム金属配位を用いたケージではなく、共有結合を用いたケージを設計し、その調整の目処がたった。さらに、タンパク質を内包する十分なサイズを確保するために、様々な構成ユニットを設計し、自己集合による化学ケージ形成を試した。これらのケージの骨格をもとに水溶性を高めるための様々な化学修飾を施した。現在、水溶性を評価し、改変を繰り返しているところである。目的の構造を持つケージであることを確認するために、化学ケージの結晶化を行い、いくつかの条件で結晶が得られている。今後、X線回折によりケージの結晶構造解析を進める。 研究2:ケージ内での膜タンパク質を均一にする 膜タンパク質をケージ内に均一に固定するために必要な、リンカーと結合タグを設計した。本年度は、特に化学ケージ側からのアプローチで、リンカーと結合タグの設計を行った。タンパク質側のタグとして既存のもので広く使われているものを用い、それらのタグと特異的に結合する化学ケージ側のタグを開発した。化学ケージ側のタグは、ケージ骨格からの距離を自由に設計できるよう、PEGを用いたリンカーを挿入した。これらの開発により、タンパク質側の改変は最小限で構造解析が行えるようになった。さらに、結合タグの種類を増やしたことで、タンパク質もしくはタンパク質複合体分子に2種以上の異なるタグがつけられるようになり、ケージ内での位置を決定することができるようになった。実際に、対になるタグを挿入したタンパク質を発現精製し、タグ同士の結合実験を行い、結合評価を行った。その結果、固定化に十分利用できることを確認した。現在は、結合効率を高める反応条件の検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
克服しなければならない課題について、 それぞれ進捗があったものの、さらなる課題も見えてきた。課題ひとつひとつを克服することが、「化学ケージ結晶化法」の方法論を確立することに繋がるため、丁寧に着実に克服のための方策を模索していきたい。 研究1:膜タンパク質の機能を保持したままケージに内包する 今後も、共有結合を用いた化学ケージの骨格をもとに、目的の機能を持った化学ケージの合成に注力する。水溶性や安定性の評価とX線結晶構造解析によるケージ構造の確認を並行して行う。化学ケージの合成がこの研究の肝であるため、まずは化学ケージが設計通りの構造を持ち、水溶性と安定性の面でも十分利用できるものになるよう、改変を繰り返す。ただし、目的に合った化学ケージの合成は、当初予定していたよりずっと難しく、今後も難航する可能性がある。その場合には、研究2の成果を確認するために異なるケージもしくはケージ状でなくても分子を固定する基盤となるものを準備することも考えている。 研究2:ケージ内での膜タンパク質を均一にする これまで、固定化タグの種類や、形状や長さの異なるリンカーなど多様なものを準備することができた。いよいよ、目的の通りに標的分子を固定できるかを確認する。化学ケージが準備でき次第、内包実験を行う予定だが、化学ケージの準備に時間がかかるようであれば、他のケージもしくは固定基盤上でまずは目的通りに固定ができているのかを確認する。結晶構造解析を行う場合には、ケージ内部での分子の揺らぎは最小限に抑えたい。これまで準備してきた、タグやリンカー、または融合タンパク質を駆使して、揺らぎを抑える条件を検討していく予定である。
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