2021 Fiscal Year Research-status Report
コンドロイチン硫酸による免疫応答制御:糖鎖構造とシグナル伝達機構
Project/Area Number |
20K06513
|
Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
幡野 その子 愛知医科大学, 分子医科学研究所, 助教 (40434625)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | コンドロイチン硫酸 / 抗原提示細胞 / 免疫 / 分化誘導 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体防御機構は、自然免疫と獲得免疫の複合的な免疫応答が担っている。自然免疫は局所で即時に反応し、病原体や腫瘍細胞などの増殖に対する初期防御として機能しているが、最終的な病原体などの排除と免疫学的記憶の形成には獲得免疫が必要である。自然免疫の活性化による獲得免疫の誘導には、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞が中心的な役割を担っている。 近年、抗原提示細胞の機能制御にコンドロイチン硫酸が関わっていることがわかってきた。コンドロイチン硫酸はグルクロン酸とN-アセチルガラクトサミンの二糖単位が数十回繰り返し連なった直鎖上の糖鎖で、硫酸基の修飾を受けて多様な構造をとり、コアタンパク質と共有結合しプロテオグリカンとして存在する。コンドロイチン硫酸の微細構造が同分子の機能の特異性を規定していることが次々と報告されているが、生体反応に対する機能は一定した見解は得られていない。それは生体内の糖鎖が多様性に富むため、天然由来コンドロイチン硫酸を用いた研究からは確立された見解を得るのは難しいことによる。申請者の研究室では、糖鎖長と硫酸基修飾部位の規定されたコンドロイチン硫酸を酵素化学的に合成する技術を有している。本研究ではこの技術を用いて、糖鎖長と硫酸基修飾部位の規定されたコンドロイチン硫酸を酵素化学的に合成して実験に用いる。実験では抗原提示細胞をコンドロイチン硫酸存在下で培養し、エンドトキシン などの刺激物質を用いて活性化を試みる。この際、抗原提示細胞の活性化を制御するコンドロイチン硫酸の微細構造と制御機構を明らかにする。以上により免疫機構の制御できるコンドロイチン硫酸の構造を明らかにすることで、その有効利用に貢献することを目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コンドロイチン硫酸は糖鎖の基本単位となる二糖に結合した硫酸基の結合位置と数によってA,B,C,D,E,H,Kの7種類に分類されている。哺乳類の組織において産生されるコンドロイチン硫酸は二糖構造に硫酸基が1箇所結合したA構造やC構造が主成分であり、硫酸基が2箇所結合するD構造やE構造は少ない。高硫酸化されたコンドロイチン硫酸は生理活性物質との相互作用が強くなることによりその機能性が発揮されると考えられている。これまでは脳・神経系組織で発現の高いE構造に関する研究が進んできたが、免疫反応に対する作用はあまり報告されていない。そこで私達はE構造含量が高いスルメイカ軟骨からコンドロイチン硫酸を抽出し、特にE構造が樹状細胞の活性化にどのように機能するかを検証した。 マウス骨髄由来多能性幹細胞を採取し分化させた未熟樹状細胞をイカ軟骨由来コンドロイチン硫酸を固相化したプレート上で予め培養し、その後エンドトキシンのひとつであるリポポリサッカライドを添加することによって樹状細胞を活性化した。コントロールはイカ軟骨由来コンドロイチン硫酸を固相化していないプレート上で同様の実験を行い比較に用いた。成熟樹状細胞が産生する生理活性物質は定量的リアルタイムPCRにてmRNAレベルで測定した。活性化の指標となる炎症性サイトカインの発現はコンドロイチン硫酸固相化群でコントロール群に比べて高い傾向にあったが、有意差は得られなかった。また、コンドロイチン硫酸を認識する受容体型チロシンフォスファターゼのひとつであるPTPRσの樹状細胞における発現もコンドロイチン硫酸固相化群で高い傾向にあったが、有意差は得られなかった。固相化するコンドロイチン硫酸量は当研究室で以前行った神経細胞による樹状突起の伸長実験に用いた量を参考に設定した。現在、本研究で有意な結果を得るためにコンドロイチン硫酸量および構造を再検討している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究ではマウス骨髄由来未熟樹状細胞のリポポリサッカライドによる活性化においてイカ軟骨由来コンドロイチン硫酸がどのように機能するのかを検証している。現在、成熟樹状細胞が産生する生理活性物質は定量的リアルタイムPCRにてmRNAレベルで測定したが、ELISA法にてタンパク質レベルでの発現量も測定する予定である。これまでに得られた結果からコンドロイチン硫酸による有意な効果は得られなかったため、現在コンドロイチン硫酸量を再検討している。また、高硫酸化されたコンドロイチン硫酸は生理活性物質との相互作用が強くなることによりその機能性が発揮されると考えられているため、E構造に特化してきたが、樹状細胞特異的な構造を見出す必要がある。至適量と構造などの諸条件が決まれば本研究を続行し、コンドロイチン硫酸固相化プレート上で活性化した樹状細胞の遊走能をボイデンチャンバー等を用いて測定する。以上よりどのような構造のコンドロイチン硫酸がどのように樹状細胞に作用するのかを明らかにする。 以上の計画で良好な結果が得られない場合はマウス骨髄由来多能性幹細胞から未熟樹状細胞への分化過程も検討する。骨髄で免疫担当細胞を生み出す造血幹細胞は骨髄の微小環境によってその多能性が維持・調節され、コンドロイチン硫酸は微小環境を構成する分子のひとつである。実際、私達が作製したコンドロイチン硫酸合成酵素欠失マウスの骨髄由来間葉系幹細胞は分化の方向性が野生型と異なっていることから、コンドロイチン硫酸が幹細胞の分化を制御する可能性も考えられる。従って、同マウス骨髄由来多能性幹細胞から未熟樹状細胞への分化誘導を行い、野生型と比較することによって分化の方向性やその後の活性化の違いなどを明らかにする。更に、コンドロイチン硫酸存在下での分化誘導の正常化を図る。
|
Causes of Carryover |
世界的な新型コロナ感染拡大によって国内外で行われる学会に参加することができなかったため旅費の支出がなかったが、今年度は行動制限が掛からない範囲内で参加する予定である。 これまでの実験では安価なイカ軟骨から抽出したコンドロイチン硫酸を使用し、解析には当研究室にある物品を使用することができたため、新たに高額な物品を購入する必要がなかった。今年度は本研究に特化したELISAキットや各種抗体が必要となる予定である。 また、実験の方向性を幹細胞にまで広げる場合、専用培地や各種分化誘導培地など高額な消耗品が必要となってくると考えられる。
|