2021 Fiscal Year Research-status Report
カルシウムポンプとフリッパーゼ;触媒部位から輸送部位への構造変化の伝達機構
Project/Area Number |
20K06534
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Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
大保 貴嗣 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (90207267)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カルシウムポンプ / エネルギー共役 / P型ATPアーゼ / ATP13A2 / パーキンソン病 / 蛍光ラベル / 1分子観察 / ポリアミン |
Outline of Annual Research Achievements |
ATP加水分解に共役したCaポンプの輸送サイクルでは、リン酸化中間体(EP)の形成、異性化、加水分解を経由する。EP異性化では細胞質領域のAドメインがP、Nドメインと結合し、この構造変化が膜ドメインの輸送部位に伝わり、閉塞されていたCa2+が内腔へ放出される。膜貫通ヘリックスM2は細胞質まで伸びてAドメインに繋がり、これら部位間の構造変化の伝達に機能すると予測される。本研究はP型ATPアーゼの物質輸送メカニズムの解明である。①Caポンプのエネルギー共役におけるM2膜貫通部分M2mの機能を部位特異的変異により調べた。これより、Aドメインの大きな動きにより駆動されるM2mの構造変化が、内腔側Ca-gate開口とCa2+放出に重要であることを示した。②P型ATPアーゼATP13A2はATP加水分解に共役してリソソーム内腔から細胞質へポリアミンを輸送する。東京大学理学系研究科濡木研究室との共同研究によりポリアミンの輸送反応の様々な中間体の立体構造を決定し、その輸送メカニズムを詳細に解明することに成功した。ATP13A2の遺伝的変異はパーキンソン病に関連しており、この成果はこの疾患の理解に繋がると期待される。本研究成果は2021年米国科学雑誌 Mol.Cellに出版された。③Caポンプの輸送過程は、基質・阻害剤を用いた、snapshotである X 線結晶構造解析でも調べられてきた。しかし、E2PCa2の構造が未知であり、EPからCa2+を内腔に放出する過程を含むEP異性化の構造的過程は未解明である。本研究ではAドメインの特異的部位に蛍光ラベルして光学顕微鏡下にて観察し、活性を保った状態で溶液中にある1分子のAドメインの構造変化をリアルタイムで検出することに成功した。本研究成果は2021年科学雑誌 Sci.Rep.に出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はP型ATPアーゼの物質輸送メカニズムの解明である。①Caポンプのエネルギー共役におけるM2膜貫通部分M2mの機能的役割を部位特異的変異により調べ、Aドメインの大きな動きにより駆動されるM2mの構造変化が、内腔側Ca-gate開口とCa2+放出に重要であることを示した。②ポリアミンを輸送するP型ATPアーゼATP13A2の輸送反応の様々な中間体の立体構造を決定し、その輸送メカニズムを詳細に解明することに成功した。本研究成果は2021年米国科学雑誌 Mol.Cellに出版された。③Caポンプの輸送過程の鍵となる反応段階、EPからCa2+を内腔に放出する過程を含むEP異性化の構造的過程を調べるため、Aドメインの特異的部位に蛍光ラベルして光学顕微鏡下にて観察し、活性を保った状態で溶液中にある1分子のAドメインの構造変化をリアルタイムで検出することに成功した。本研究成果は2021年科学雑誌 Sci.Rep.に出版された。④フリッパーゼの脂質輸送過程に及ぼす部位特異的変異と構造解析についての研究が現在進行中であり、脂質輸送の鍵となるE2P分解過程の構造と部位特異的変異の効果が矛盾なく一致する結果を得ている。以上のように着実に成果を出すことに成功していることが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はP型ATPアーゼの物質輸送メカニズムの解明である。①CaポンプM2膜貫通部分M2mの部位特異的変異の効果について得られた結果を基にして、さらにM2周辺構造への変異も調べる。これよりAドメインの大きな動きにより駆動されるM2mの構造変化が、内腔側Ca-gate開口とCa2+放出に及ぼす影響について調べ、M2のエネルギー共役における役割を解明する。②ポリアミンを輸送するP型ATPアーゼATP13A2の輸送反応の様々な中間体の立体構造を基にしてN末端領域への部位特異的変異をさらに詳細に調べ、本酵素への脂質結合による制御機構について調べる。③フリッパーゼの脂質輸送過程に及ぼす部位特異的変異と構造解析についての研究が現在進行中であり、これを発展させる。脂質輸送の鍵となるE2P分解過程の構造と部位特異的変異の効果について機能解析を行い、得られた結果を基にして、さらにM2周辺構造への変異も調べる。
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Causes of Carryover |
Caポンプのリン酸化中間体アナログの原子構造解明のため、安定化、精製条件の確立、クライオ電顕による構造解析用試料の検討、作成を、出張して共同研究で進める予定であった。しかし、COVID-19のため出張しての共同研究などができなくなったため、その実施ができなかった。令和3年度に予定していた残りの研究、出張を令和4年度に行い、次年度使用額を使用する予定である。また、当初令和4年度に予定していた研究に関しては、予定通り行う計画であり、助成金は計画通りの使用を予定している。
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Research Products
(9 results)