2022 Fiscal Year Research-status Report
Identification of the maturation-inducing hormone receptor in starfish
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20K06538
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
奥村 英一 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (00323808)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 卵成熟誘起ホルモン / 1-methyladenine / 1-メチルアデニン / 受容体 / GPCR / ケミカルジェネティクス / シグナル伝達 / イトマキヒトデ |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトデ卵成熟誘起ホルモンの受容体の同定が本研究の目的であり、申請者がこれまでに見いだした有力候補であるGタンパク質共役型受容体(GPCR)がヒトデ卵で機能する真の受容体であるかどうか確認しようとしている。これまで卵で発現している候補GPCRの機能阻害を目指して、抗GPCR精製抗体による阻害や、機能不全型GPCR変異体の発現による競合的阻害を試してきた。 今年度は抗体による阻害について進展があり、細胞外突出部分を抗原とした精製抗体を海水中に加えて卵表層に作用させることで、約半数の卵の卵成熟を完全に阻害することに成功した。この阻害は抗原ペプチドを添加することで阻害がキャンセルされたことから、精製抗体溶液に含まれる夾雑物の影響などではなく抗体の作用を通じたものと結論された。ただし阻害率を上げようと繰り返し実験を行ったところ、卵のなかに阻害できる卵とそうでないものが存在することが判明した。これら阻害効果の違いは、ホルモンに応答するタンパク質のリン酸化状態の違いと相関があり、阻害効果が見られない卵ではホルモンに応答した後に見られるリン酸化が検出された。これは未成熟卵にはホルモンの作用を受けた状態の卵が存在することを示しており、ホルモンの作用機構には、一部の標的タンパク質が応答しているが未成熟の状態を維持する段階と、その後実際に卵成熟を誘起する2段階あると推測された。 性質が異なる未成熟卵の存在を示唆する報告はこれまでにも存在したが、今回のように細胞内のタンパク質のリン酸化状態の違いとして分子レベルで違いを示したのは初めてとなる。この知見はホルモンの作用機構の理解の手がかりとなり、今後の成熟誘起機構の解明に役立つと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究開始当初のCOVID-19対策としての出校制限による研究の遅れについては、ややとり戻してきていた。また今年度は、抗体を用いた阻害実験に進展があり、有力候補が真の受容体である可能性が非常に高まっていた。しかし、さらに解析を進めるうちにホルモン受容体が、1種類で2段階の作用を担うこと、または2種類ある可能性が出てきてしまった。これは当初想定していなかった事実で、研究をまとめるためには、まずは1種類か2種類かの問題を解決する必要がある。1種類の受容体の場合はホルモン濃度によりシグナル伝達に違いが出るという作用機構に関する詳細が加わるだけだが、もし2種類ある場合は本研究目的遂行のためには現在の候補以外の受容体も探索する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
候補GPCRがヒトデ卵細胞内で卵生熟誘起ホルモンに応答する受容体であるかについては、細胞外突出部位に対する精製抗体による阻害により、その可能性が非常に高いことが示された。しかし、その解析の過程で、ホルモンの作用機構に2段階あり、この2段階の作用が、1種類の受容体が低濃度と高濃度で使い分けられている可能性と、2種類のホルモン受容体が存在する可能性とが考えられた。今後は、まずこの問題を解決する。候補GPCRを別の細胞内突出部位に対する抗体で阻害した時に、どちらの卵でも阻害できれば1種類であり、上記同様阻害がかかるものとそうでないものがある結果となれば2種類存在することになるため、この実験を優先して進める。今までのところ細胞内突出部位に対する抗体では卵成熟開始の遅れは見られたものの完全な阻害は出来ていなかったため、抗体を細胞表層へ標的化するタンパク質を抗体と同時に導入することにより、より効率的な阻害の実現を目指したい。
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Causes of Carryover |
研究開始当初にCOVID-19の影響による出校制限があり、実験系である本研究課題においては、当初大きな遅れが生じていた。これまでには研究計画のいくつかの目標について遅れを取り戻しつつあり、特に今年度は研究遂行上重要な阻害実験で大きな進展があった。ただし、その解析の過程で想定していなかった新事実が明らかになり、その点を明らかにする必要が生じた。こうした遅れと検証作業が理由となり、物品費の予算執行額が当初計画よりも下回り、次年度使用額が生じてしまった。交通費については、コロナ対策の影響により執行額が当初計画を下回った。また、人件費については、採用していた補佐員の方が予定より早期に退職したため、執行額が当初計画を下回った。 今後の使用計画としては、物品費については、まずは本研究にとって重要であるが当初想定していなかった新知見に関する解析のために必要な研究試薬等を購入する。その後は順次研究目的遂行に必要なものの購入に当てていく。交通費については、今後は遠隔地での採集や学会参加の出張に積極的に使用したい。人件費については、次の補佐員の採用を検討しているが、研究の進展状況に応じてその予算を物品費へ振り替えることも検討する。
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