2021 Fiscal Year Research-status Report
リン酸化プロテオミクスにより新たに見出したアダプタータンパク質の役割の解明
Project/Area Number |
20K06548
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小西 博昭 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (40252811)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞情報伝達 / タンパク質リン酸化 / アダプタータンパク質 / ノックアウトマウス / 疾患原因遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
GAREMはEGF受容体下流で機能する因子の網羅的解析により見出した新規アダプタータンパク質である。GAREMは2種類の分子種が存在し、どちらも細胞増殖因子刺激によるErk活性化制御因子として機能することを明らかにしているが、これまで疾患との直接の因果関係は不明であった。近年の次世代シークエンサーの普及により、ゲノム全体の配列決定が容易になり、疾患原因遺伝子などの検索が広く行われている。GAREM1については肺がんや肝芽腫の患者において、その遺伝子変異が見出され、新たな疾患マーカーとしての応用が期待されている。疾患にかかわる遺伝子変異の検索方法で、タンパク質の読み枠であるゲノム中のエクソンのみの配列を読むエクソーム解析が近年注目されている。その解析により突発性低身長の原因として見出された遺伝子群の中にGAREM1が含まれ、その変異はアミノ酸置換を伴い、291番目のリジン(K)残基が、アルギニン(R)に変化するものであった(GAREM1(K291R)。本研究ではその変異タンパク質を人工的に発現し、野生型との性質を比較することで、GAREM1の機能と突発性低身長との関連を解明する目的で行った。 K残基はユビキチンの他、様々な翻訳後修飾のターゲットアミノ酸として知られている。現在のところGAREM1のK291がユビキチン化を受けるデータは得られていない。しかし、GAREM1(K291R)は野生型に比較してEGF刺激後の安定性及びErkの活性化能が低いことがわかった。この原因については現在考察中であるが、低身長の原因遺伝子として現在までに同定されているものとしてはIGFR1やFGFR3などの細胞増殖因子受容体が知られている。GAREM1は細胞増殖因子シグナルを伝達するためのアダプタータンパク質として機能するため、GAREM1の機能の低下が生体内での低身長に起因する可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年4月に現所属先に赴任後、様々な申請・承認手続きならびに研究室人員確保の末、2021年暮れからようやく動物実験を再開することができた。GAREM1、2のダブルノックアウトマウスの行動解析については、すでに藤田医科大学との共同研究を行えることが決まっているので、現在、必要数のマウス個体を繁殖中であり、2022年度内には実施予定である。 また、ゲノム編集法で作製したWDR54のノックアウトマウスも異動時に凍結胚保存した状態のままで、飼育スペースの関係上、まだ現所属先では解析を始められていない。GAREMのダブルノックアウトマウスの繁殖が終了ししだい、WDR54についても動物個体レベルでの機能解析を開始する所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨今の大規模ゲノム解析の結果から、様々な疾病患者においてGAREMやCLPABP遺伝子中の変異が見出され、中にはORF中の変異によりアミノ酸置換が起こっている場合も数件報告されている。 突発性低身長症患者から見出されたGAREM1のK291Rはその一つであるが、CLPABP(PLEKHN1)については、パーキンソン病患者から見出された43番目のアラニンからバリンへの置換(Front Aging Neurosci. 2021, 12:603793)、先天性感覚神経症・自律神経症から見出された364番目のアスパラギン酸からバリンへの置換(Neurol Genet. 2021, 7(2):e568.)が報告されている。全長611アミノ酸からなるCLPABPはアミノ末端側に2つのPHドメインを持つが(85~318アミノ酸部分)、A43V及びD364Vの変異部分はいずれもPH領域中ではないが、CLPABPの細胞内局在や機能(mRNAの安定化など)に影響を与える可能性がある。本年度はCLPABPのA43V及びD364V変異体を人工的に作製し、培養細胞で発現させ野生型との機能変化について解析する。 GAREM及びWDR54は前述の通り、ノックアウトマウスを用いた動物個体における解析を進め、それらの生理機能について追及する。 新たな方針として、CLPABPの発現有無により発現量が変化を受ける遺伝子の網羅的解析により見出された候補因子の中から、機能未知のものに着目をして、その全長cDNAのクローニングと培養細胞におけるタンパク質発現系を構築する。そして、これまでと同様、一つでも多くの機能未知タンパク質の生体における役割を明らかにする。 一つの研究室からヒト疾病原因遺伝子を同定することは困難であるが、機能未知遺伝子の地道な解析は、将来的にはそれが原因となる疾病の治療法の開発につながる可能性がある。
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