2020 Fiscal Year Research-status Report
分泌モニタータンパク質VemPの翻訳アレスト解除の分子機構
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20K06556
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森 博幸 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 准教授 (10243271)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | VemP / SecDF / PpiD / Ffh / 膜透過 |
Outline of Annual Research Achievements |
VemPはビブリオ属細菌が持つ分泌タンパク質であり、自身の分泌能が低下した際には自分自身の翻訳がC末端近傍で安定に停止するというユニークな特徴を持つ。VemPはこの自己翻訳停止能を利用して、自身の遺伝子の同一オペロン下流に位置するsecDF2の発現を制御し、菌の膜透過能を高く維持するという生理的な役割を持つ。膜透過が正常な際には、自分自身の膜透過反応に伴い生じる引っ張り力により翻訳停止は速やかに解除される。興味深いことに、VemPの翻訳停止の解除は、SecYEG膜透過チャネル上で膜透過がある程度進行した状態で初めて生じることが示されていたが、その機構は不明であった。本研究は制御されたVemPの翻訳停止の解除の分子機構を明らかにすることを目指す。 本年度は、VemPがリボソームにより翻訳され、膜透過と共に翻訳アレストが解除されるまでの過程で生じる他の細胞内因子との相互作用を網羅的に解析することを目指して、VemP分子全体を対象とした部位特異的in vivo光架橋実験を行った。相互作用が示唆されていたSecYEG装置に加えて、SRPのタンパク質成分FfhとペリプラズムシャペロンPpiDとの架橋を新たに見出した。各々に対する変異株を用いた生化学的解析から、これらの因子が各々VemPの膜透過装置への局在化と翻訳停止の解除に重要であることを明らかにした。さらに、VemP分子内のArg-85残基が、翻訳停止のタイミングの決定に極めて重要な役割を持つことを見出した。このアミノ酸残基は、VemPの膜透過能を何らかの形で低下させることにより翻訳停止の解除のタイミングを遅らせていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
VemP分子を対象とした部位特異的in vivo光架橋実験の遂行は、当初の計画の通りであったものの、大きな遅延もなく順調に実行できた。事前にある程度の予備的成果は得られていたとは言え、新規に見出したFfh, PpiDのVemP成熟化過程における役割も明らかにできたことから、順調に進展していると判断できる。 加えて、我々が新たに開発した光架橋実験とpuse-chase実験を組み合わせたPiXie解析を行うことにより、VemP新生鎖と細胞内因子との相互作用の順序も明確に示すことができた点は大きな成果と言える。 更には、翻訳停止によるSecDF2の発現制御に必須のVemP分子内のcis-element Arg-85残基の特定にも成功した。この部位の変異体を用いた生化学的解析から、このArg-85残基は、翻訳停止の形成には関与しておらず、適切なタイミングで翻訳停止を解除するのに重要な役割を持つことを見出した。さらに、この残基はSec装置による膜透過能を阻害することにより、翻訳停止解除におけるSecDF, PpiD依存性の発揮に関与していることが明らかになった。この部位の特定は、VemP翻訳停止解除の分子機構の理解に向けて重要な基礎情報を与えると考えている。 以上の成果を取りまとめてeLIFE誌に報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
1)VemP分子内のcis-element Arg-85の存在は、このアミノ酸以外にも翻訳停止状態の安定性を制御する領域が存在する可能性を示唆する。今後は、VemP分子内に他のcis elementが存在するか否かを遺伝学的手法を用いて検索する。具体的には、ppiDの欠失に伴う翻訳停止解除の遅延を利用して、ppiDが欠失した株中においても、VemPの翻訳停止が不安定化したcis変異の分離を試みる。vemP遺伝子の下流にbla遺伝子(翻訳によりアンピシリン耐性を与える)やphoA遺伝子(翻訳によりアルカリフォスファターゼ活性を与える)をin-frameで融合することにより、翻訳停止の不安定化による下流遺伝子タンパク質の活性を指標に変異を分離する。得られた変異を解析することにより、翻訳停止の解除に関与する領域の特定を行う。予備実験の結果から、目的の変異を幾つか分離しており、今後の順調な進展が期待できる。 2)VemP翻訳停止解除の分子機構の理解にはin vitroの解析系は欠かせない。新年度は、反転膜小胞を用いたVemPのin vitro 膜透過実験系を構築し、VemPの膜透過と翻訳停止解除に必要な細胞内因子やエネルギーなどを検討する。すでにSRP, FtsYの添加により、in vitro膜透過活性が観察されることを見出しており、順調な進展が期待できる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの拡散防止の為、参加を予定していた学会や研究打ち合わせ等が全て中止もしくはオンライン会議となり当初予定していた旅費の使用金額がゼロとなった。また、研究協力者である大学院生や実験補助員の学内への立ち入りが制限されたこともあり、彼らが使用する予定であった物品費が大幅に減少することとなった。さらには、実験補助員の勤務時間が短くなったこともあり、人件費も抑えられる結果となった。これらの事から、今年度の残予算は次年度に回し以下の研究を進める。研究の予想外の進展により、研究課題を応募した際には計画していなかった「VemP分子内の新たなcis elementの同定」を進める必要が出てきた。変異体を分離した後は、塩基配列決定により変異部位を同定する必要があり、その為に多数のサンプルの解析を外部委託する必要がある。本年度の残予算はその費用に当てることを計画している。
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Research Products
(5 results)