2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K06568
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
遠藤 彬則 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 主任研究員 (50796844)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロテアソーム / タンパク質分解 / プロテオミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
プロテアソームは細胞内の異常タンパク質や不必要なタンパク質を選択的に分解することにより広範な生命現象を制御している。一般的に、プロテアソームはユビキチン化されたタンパク質を選別し分解すると考えられており、ユビキチン化を介さないプロテアソーム分解の分子機構や生物学的な重要性は未だに不明瞭である。特に、ユビキチン非依存性プロテアソーム基質(Ubiquitin Independent Substrate : UIS)の全体像はほとんど理解されていない。そこで、本研究は、それら基質の網羅的同定、個々の分解基質の機能解析を通じて、これまで見過ごされてきた「ユビキチン非依存的プロテアソーム分解機構」の分子メカニズムを解明することを目的としている。 2020年度は、まず8,500種類以上のタンパク質を定量解析する定量プロテオーム解析系を構築し、新規UISを複数同定することに成功した。さらに、これら新規UISの中でUIS1が自身の持つ20アミノ酸以下の短い配列によりユビキチン化非依存的にプロテアソームにより直接分解されることを示した。興味深いことに、UIS1のプロテアソーム分解機構はこれまでに報告がない非常にユニークな分子メカニズムであった。 プロテアソームに直接分解される基質の規模、その分子機構を明らかにしつつある2020度の研究成果は、プロテアソーム研究の進展に大きく貢献すると考えられる。また、キメラ化合物を用いて標的タンパク質をユビキチン化し、プロテアソームで強制的に分解するPROTAC(proteolysis-targeting chimera)などのプロテインノックダウン法が新しい創薬技術として近年大きく注目されているが、本研究成果はユビキチン化を必要とせず任意のタンパク質を強制的に分解する新規ケミカルツール創出に展開する可能性も秘めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の2020年度研究計画では、ユビキチン非依存的プロテアソーム分解の規模、そして、その分子機構を明らかにすることを大きな柱とした。 まず、高pH条件下の逆相カラムによりTandem Mass Tag(TMT)試薬でラベルしたペプチドを分画し、高性能分析カラムとイオンモビリィティ装置(FAIMS-Pro)の搭載によりイオン導入部分を最適化した質量分析計Orbitrap Fusion Lumosで解析することにより、8,500種以上のタンパク質を同定・定量する解析法(TMT/FAIMS法)を構築した。この方法を用いて、プロテアソーム阻害剤とユビキチン化酵素E1阻害剤でそれぞれ処理した細胞の定量プロテオーム解析を行い、新規UIS候補を網羅的に同定した。これらの中から遺伝子発現レベルは各阻害剤で変動せず、タンパク質合成阻害剤同時処理下でもプロテアソーム阻害剤でのみ蓄積するタンパク質、すなわちUISを複数新たに同定した。定常条件下の増殖細胞ではUIS1を含む数個のタンパク質のみがユビキチン非依存的にプロテアソームで分解されており、その分解規模は非常に小さいことが示唆された。 蛍光タンパク質を融合したUIS1の各ドメインを培養細胞に発現させ、その発現強度をフローサイトメーターで評価、あるいは精製したプロテアソームによる各ドメインの分解度を試験管再構築系で評価した。これらの解析から、UIS1がユビキチン化を必要とせずプロテアソームにより直接分解されること、そしてUIS1の持つ20アミノ酸以下の短い配列がその直接分解に大きく寄与していることを明らかにした。 このように、当初の研究計画に沿って2020年度は順調にに研究を進められた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度以降は、研究計画の後半部分に着手し、新たに同定したUIS1をプロテアソームによる直接分解のモデル基質として、[1] ユビキチン非依存的プロテアソーム分解の分子メカニズムの更なる解明、そして、[2] プロテアソームによるUIS1直接分解の生理的意義の探求を以下の様に進める。 [1] UIS1のユビキチン非依存的プロテアソーム分解機構解明 2020年度までに同定済みのUIS1は、天然変性領域とhelix-loop-helix構造を持つ。これまでに20アミノ酸以下の短い配列がUIS1のユビキチン非依存性デグロン領域として働くことを見出した。そこで、このデグロン領域のアミノ酸の点変異やさらに短くした配列の分解度を細胞系、試験管再構成系で評価し、UIS1の必要十分なデグロン領域を決定する。また、プロテアソームが直接結合でUIS1を認識、分解することが示唆されているため、2価数のクロスリンカーを用いた質量分析(クロスリンクMS)でUIS1とプロテアソームの直接結合サイトをマッピングし、高次構造情報を得ることで、プロテアソームがUIS1を直接認識・分解する分子機構を明らかにする。 [2] プロテアソームによるUIS1直接分解の生理的意義の探求 UIS1は、helix-loop-helix構造を介して複数種の転写因子とヘテロ二量体を形成し、広義の共役転写因子として筋分化を抑制することなどが報告されている。[1]の解析結果を踏まえて、UIS1の分子機能を保持し、プロテアソームにより分解されない変異体を作製可能であれば、その変異体を用いてUIS1のユビキチン非依存的プロテアソーム分解が細胞の筋分化誘導に関与するかを解析する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延防止に伴う第一回緊急事態宣言(2020年4-5月)中に在宅勤務となったことで、その期間に使用予定であった物品費を次年度使用にした。また、現地参加予定であった国内学会がオンライン開催となったことで、旅費を次年度使用にした。
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Research Products
(3 results)