2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K06568
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
遠藤 彬則 公益財団法人東京都医学総合研究所, 基礎医科学研究分野, 主任研究員 (50796844)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロテアソーム / タンパク質分解 / プロテオミクス / ユビキチン創薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロテアソームは細胞内の異常タンパク質や不必要なタンパク質を選択的に分解することにより広範な生命現象を制御している。一般的に、プロテアソームはユビキチン化されたタンパク質を選別し分解すると考えられており、ユビキチン化を介さないプロテアソーム分解の分子機構や生物学的な重要性は未だに不明瞭である。特に、ユビキチン非依存性プロテアソーム基質(Ubiquitin Independent Substrate : UIS)の全体像はほとんど理解されていない。そこで、本研究は、それら基質の網羅的同定、個々の分解基質の機能解析を通じて、これまで見過ごされてきた「ユビキチン非依存的プロテアソーム分解機構」の分子メカニズムを解明することを目的としている。 2021年度は、前年度までに同定した新規UISの中でUIS1について詳細な解析を行った。試験管再構築系でUIS1は26Sプロテアソームよりも20Sプロテアソームにより効率的に分解されること、培養細胞系で19Sプロテアソームの機能阻害はUIS1のタンパク質半減期に大きく影響を与えないことを明らかにし、UIS1が20Sプロテアソームの分解基質である可能性が示唆された。また、構築したプロテオーム解析法により、プロスタグランジン合成酵素H-PGDSを標的とした分解誘導剤PROTAC(proteolysis-targeting chimera)が低濃度(100 pM)でH-PGDSを効率的にオフターゲット無しで分解できることを見出した(J Med Chem 2021)。 2021年度の研究成果は、プロテアソーム研究を進展させるとともに、PROTACなどのプロテインノックダウン法をはじめとしたユビキチン創薬分野への貢献が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、ユビキチン非依存的プロテアソーム分解の規模、そして、その分子機構を明らかにすることを大きな柱とした。 現在までに約9,000種のタンパク質を同定・定量する解析法(TMT/FAIMS法)の構築に成功している。本手法を用いて、プロテアソーム阻害剤とユビキチン化酵素E1阻害剤でそれぞれ処理した細胞の定量プロテオーム解析を行い、新規UIS候補を網羅的に同定した。これらの中から遺伝子発現レベルは各阻害剤で変動せず、タンパク質合成阻害剤同時処理下でもプロテアソーム阻害剤でのみ蓄積するタンパク質、すなわちUISを複数新たに同定した。定常条件下の増殖細胞ではUIS1を含む数個のタンパク質のみがユビキチン非依存的にプロテアソームで分解されており、その分解規模は非常に小さいことが示唆された。また、同手法により、プロスタグランジン合成酵素H-PGDSを標的とした分解誘導剤PROTACのオフターゲット効果をプロテオームワイドに評価し、本化合物が低濃度(100 pM)でH-PGDSをオフターゲット無しで効率的に分解することを明らかにした(国立衛生研との共同研究、J Med Chem 2021)。 プロテアソームによるUIS1の分解機構の解析を進め、UIS1がユビキチン化を必要とせずプロテアソームにより直接分解されることを示した。さらに、試験管再構築系でUIS1は、26Sプロテアソームよりも20Sプロテアソームにより効率的に分解されること、培養細胞系でRNAi法や化合物による19Sプロテアソームの機能阻害は、UIS1のタンパク質半減期に大きく影響を与えないことから、UIS1が20Sプロテアソームの分解基質である可能性が示唆された。 このように、当初の研究計画に沿って2021年度までおおむね順調に研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、引き続き研究計画の後半部分に着手し、UIS1をプロテアソームによる直接分解のモデル基質として、[1] ユビキチン非依存的プロテアソーム分解の分子メカニズムの更なる解明、そして、[2] プロテアソームによるUIS1直接分解の生理的意義の探求を以下の様に進める。 [1] UIS1のユビキチン非依存的プロテアソーム分解機構解明 前年度までに同定済みのUIS1は、天然変性領域とhelix-loop-helix構造を持つ。これまでに20アミノ酸以下の短い配列がUIS1のユビキチン非依存性デグロン領域として働くことを見出した。そこで、このデグロン領域のアミノ酸の点変異やさらに短くした配列の分解度を細胞系、試験管再構成系で評価し、UIS1の必要十分なデグロン領域を決定する。また、プロテアソームにより分解されたUIS1のフラグメントを質量分析で解析し、その分解機序の詳細を明らかにする。 [2] プロテアソームによるUIS1直接分解の生理的意義の探求 UIS1は、helix-loop-helix構造を介して複数種の転写因子とヘテロ二量体を形成し、広義の共役転写因子として筋分化を抑制することなどが報告されている。[1]の解析結果を踏まえて、UIS1の分子機能を保持し、プロテアソームにより分解されない変異体を作製可能であれば、その変異体を用いてUIS1のユビキチン非依存的プロテアソーム分解が細胞の筋分化誘導に関与するかを解析する。さらに、UIS1の相互作用因子をIP-MS法で同定するとともに、UIS1の過剰発現がプロテオームへ与える影響をTMT/FAIMS法で解析することで、その細胞内機能を明らかにする。
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Causes of Carryover |
現地参加予定であった国内学会がオンライン開催となったことで、旅費が不要となり、未使用額が生じた。その分の旅費を次年度使用する予定である。
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Research Products
(4 results)