2022 Fiscal Year Research-status Report
Development and dissemination of unroof and perforation methods for cryo-EM and AFM
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20K06586
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
臼倉 治郎 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 名誉教授 (30143415)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アンルーフ法 / 免疫フリーズエッチング電顕 / 原子間力顕微鏡 / インフルエンザ / クライオ電子顕微鏡 / 細胞骨格 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞膜を引き剥がす方法として、アンルーフ法を開発、改良した。これまでは細胞膜の細胞質側表面(内表面)、特に細胞膜の裏打ち構造を形態的に観察する方法がなかった。膜の裏打ち構造は情報伝達やウイルスなど感染過程において重要な役目を担っているにもかかわらず、機能と構造を結びつけられずにいた。そこで、我々は膜を剥がしてその内表面を観察するということを考えた。培養細胞の腹側細胞膜の裏打ち構造の観察には弱い超音波を用いて、背側の細胞膜および細胞質を除去し、腹側細胞膜の裏打ち構造を露出させ観察する方法(sonication method、超音波法)と接着性を高めたカバーガラスを背側細胞膜に押し当てた後、これを引き剥がし、背側細胞膜の裏打ち構造を観察する方法(adhesion method、接着法)を開発した。アンルーフは元々フリーズエッチングレプリカ法を経て細胞膜の裏打ち構造を電子顕微鏡(電顕)観察するために開発した方法であるが、我々はこれをクライオ電子顕微鏡(電顕)観察の試料作製にも応用した。アンルーフすることで細胞質が多少残っても、細胞全体の厚さは300nm以下となり、液体窒素で冷却した液体エタンへ浸漬凍結であっても十分な急速凍結となる。実際、30000倍では氷晶は確認されなかった。そして、新鮮状態の膜細胞骨格を観察することに成功した。また、この方法は原理的に考え、様々な顕微鏡観察のための試料作製に役立つと考え、その普及と発展に努力している。我々は原子間力顕微鏡にも適用し、カベオラ、クラスリンコートを水中で電子顕微鏡と同等の分解能で観察できた。これは水分を含んだ試料を高分解能で観察したという画期的な出来事であった。また、現在行っているインフルエンザウイルスの感染後の子孫ウイルスも出芽に際してゲノムパッケージングが細胞膜内表面で行われることもアンルーフ法によって明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アンルーフ法の改良は順調に進んだが、学会での発表はコロナ禍で思うように進まなかった。この3年間は普及に関する努力は専ら総説の発表など出版事業に依存した。また、インフルエンザA型ウイルス(IAV)の感染過程に関する応用研究は以下に記すように極めて重要な知見が得られた。本論文を投稿発表するためにも研究期間を1年間延長した。 IAVは8セグメントのゲノムを持つエンベロープ型RNAウイルスで、季節的な流行と時折起こるパンデミックの原因となっている。8本の異なるゲノム、ウイルス性リボ核タンパク質(vRNP)のパッケージングは、負鎖RNAの相互作用によって促進される選択的プロセスであると考えられているが、子孫vRNPの輸送とパッケージング過程の形態的詳細は不明である。 そこで、アンルーフ法を併用した免疫フリーズエッチ電顕を用いて、vRNPの細胞など謡を調べた。子孫vRNPは筏状構造体により細胞質内を運ばれ、細胞膜の細胞質側に到達後、膜の内面でアクチンフィラメントに結合し、ミオシンによるアクチンフィラメントの形態変化により適切なサイズ(最終的には8個のvRNPからなる)にクラスター化した。子孫ウイルス出芽の生細胞高速原子間力顕微鏡イメージングも行った。細胞質では、vRNPはクラスター化せずに筏様構造の細胞質表面に主に局在していた。細胞膜の内面状でvRNPはアクチン線維と結合していた。また、アクチン線維上にはミオシンが免疫細胞化学的に検出された。ブレビスタチンによるミオシン機能の阻害は、適切なパッケージングを抑制し、出芽速度も低下させた。現在、これらの実験結果を論文化している。さらに、Springer-Nature社からアンルーフをはじめとする電顕観察法のreviewも依頼されており、これらを完結するためには画像処理ソフトの購入や投稿料、および時間が必要なので研究期間の延長を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本来の研究期間は2020年4月から2023年3月末まであり、大半がコロナ禍での研究遂行であり、全てが順調という訳にはいかなかった。上記、アンルーフ法の応用研究であるインフルエンザ感染過程の形態学的研究の論文はまとまりつつあるが、これから投稿reviseを考慮すると出版までには半年以上の期間を要する。そのため、研究期間を1年間の延長した。また、Springer Nature社から「ウイルスゲノムの動態解析に役立つ、アンルーフをはじめとする電顕観察法」と言うことで方法論の総説を12月締め切りで依頼されている。さらに、新規アンルーフ法を含む生物電子顕微鏡技術の新刊本の出版を共立出版(株)と契約を結んだ。したがって、本年度の研究推進方策は主として論文の作成と学会における対面での発表による啓蒙と普及を中心に進める予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で学術講演会において対面での質疑応答が十分できず、本研究課題の一つであるアンルーフ法の普及は満足するほどには至らなかった。一方で、応用研究のインフルエンザの感染過程では膜直下にてゲノムのパッケージングがアクチン線維の力を借りて行われることが明らかになったが、論文の出版までには未だ少し時間がかかる。したがって、研究期間を1年間延長した。そして、学会への出張料費や学術雑誌への投稿料が必要なため、研究費も次年度使用額として繰り越した。
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