2021 Fiscal Year Research-status Report
量子化学計算による原始RNAのL-アミノ酸選択的アミノアシル化の分子機構解明
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20K06592
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
安藤 格士 東京理科大学, 先進工学部電子システム工学科, 講師 (30385546)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アミノ酸のキラル選択性 / 量子力学計算 / 分子動力学計算 / 自由エネルギー計算 / アミノアシル化反応 / RNA |
Outline of Annual Research Achievements |
「アミノ酸にはL型とD型の光学異性体が存在するが、なぜ現在の生物はL-アミノ酸のみを利用しタンパク質を合成するのか?」これは生命進化の大きな謎の一つである。興味深いことに、原始的なRNA分子では、酵素がなくとも、L-アミノ酸が優先的に結合(アミノアシル化)されることがわかっており、これがアミノ酸キラル選択の起源となった可能性がある。しかし、そのメカニズムの詳細は明らかとなっていない。本研究では、量子力学計算、分子力学・分子動力学計算のハイブリッド計算にアンブレラ・サンプリング法を適用することにより、原始RNAにおけるD/L-アミノ酸のアミノアシル化反応に必要な自由エネルギーを算出し、その結果を基にRNAのアミノ酸キラル選択メカニズムを、原子レベルでの構造学的、エネルギー論的な視点から解明することを目的としている。 2021年度は、前年度の自由エネルギー計算条件の検討結果を基に、さらなる条件の最適化、複数の条件で計算を行った。特に、計算に用いる反応座標の選択に注意を払い検討を行った。その結果、D-アミノ酸におけるアミノアシル化反応の自由エネルギー障壁の高さは、L-アミノ酸の場合に比べて数kcal/mol程低くなるという計算が得られた。これは、原始的なRNA分子では、L-アミノ酸が優先的にアミノアシル化するという実験事実を説明しうる。また、計算の初期構造の作成に関しても再検討を行い、初期構造に依存した計算結果、およびその解釈に差異が出ないような工夫も加えた。その他、計算の収束性を高めるため、RNAの塩基間距離に拘束条件を追加する工夫も行った。これら結果の一部を、2021年11月に行われた第59回日本生物物理学会年会で発表をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の当初の研究実施計画は、量子力学計算の領域、およびその計算精度の検討であった。しかし、検討を進めるにつれて、量子力学計算の条件そのものよりも、自由エネルギーを見積もる際の反応座標の設定が計算結果に大きな影響をあたえることに気が付いた。そのため、新たな反応座標について検討を行った。その結果、実験結果を説明しうる、D/L-アミノ酸のアミノアシル化反応自由エネルギー差を算出することに成功した。現在、複数の初期構造から計算を実行し、計算結果の統計的有意性を高めている。このように、2021年度は当初の研究計画からは少々ずれたものの、最終的な目標に向けてはおおむね順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を前に計算条件の検討はほぼ終了した。最終年度では、まず、複数の計算を実施し、統計的に信頼性の高い自由エネルギー・プロファイルを算出する。次に、その計算結果を基に、原始RNAアミノアシル化反応のキラル選択メカニズムを構造学的、エネルギー論的な視点から解析する。その際には、原始RNAのアミノアシル化反応を実験的に研究している研究者とも議論をする。その解析結果を9月下旬に開催予定の第60回日本生物物理学会年会で発表する。また、本研究結果をまとめ、2022年中に学術雑誌に投稿し、年度内に受理されるように目指す。
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Research Products
(1 results)