2021 Fiscal Year Research-status Report
核ラミナが核膜孔複合体の構築を制御する分子メカニズムの解明
Project/Area Number |
20K06617
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
志見 剛 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (60817568)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 核ラミナ / ラミン / 核膜孔複合体 / ヌクレオポリン |
Outline of Annual Research Achievements |
動物細胞の核では、ゲノムDNAが折り畳まれて高次クロマチン構造を取り、核膜によって包み込まれることが必要不可欠である。核膜の内側を裏打ちする核ラミナは、核の大きさ、形、硬さを調節する。核膜を貫通する核膜孔複合体は、核-細胞質間における高分子の輸送を調節する。核ラミナと核膜孔複合体の構造を保つことは、転写、DNA複製ならびにDNA修復を含むゲノムDNAの機能を制御するために必須である。 核ラミナの主要な構造タンパク質であるラミンは、タイプV中間径フィラメントタンパク質の一種であり、A型ラミン(ラミンA, ラミンC)とB型ラミン(ラミンB1, ラミンB2)によって構成される。A型ラミンの遺伝子全長に渡って発見された500箇所以上の変異は、組織特異的な遺伝的疾患であるラミノパチーを発症する。 我々は、クライオ電子顕微鏡トモグラフィー法(cryo-ET)とコンピュータービジョンと組み合わせた三次元構造化照明顕微鏡法(3D-SIM)を行い、胚線維芽細胞(MEF)において4量体を形成したラミン分子が繋がって直径約3.5ナノメートルのラミンフィラメントを形成すること、これらのラミンフィラメントが不均一に分布することによって厚み約14ナノメートルの核ラミナの網目構造を取ることを明らかにした(Shimi et al., Mol. Biol. Cell. 2015; Turgay at al., Nature. 2017) 。一方、核膜孔複合体は直径約120ナノメートルの筒状構造をとり、約30種類のヌクレオポリンから構成される。核膜孔複合体が核ラミナの網目構造のファイバーの隙間に1つずつ挿入されている。本研究課題では、核ラミナと核膜孔複合体が連携して機能する分子メカニズムを解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、cryo-ETとコンピュータービジョンと組み合わせた3D-SIMを行って、MEFにおけるラミンフィラメントは、核膜孔複合体の構成タンパク質の1つであるヌクレオポリンの一つであるELYSと結合して核膜孔複合体の分布を制御することを見出した(Kittisopikul and Shimi et al., J. Cell. Biol. 2021)。この研究成果は、筆頭著者となった研究論文して発表された。 A型ラミンに関連するラミノパチーの多くは、筋ジストロフィー(MD)と拡張型心筋症(DCM)の症状を伴う。近年になって、MDを原因するA型ラミン遺伝子の変異によって核膜が破損することが報告されたが、その分子メカニズムについては不明な点が多い[7]。我々は、すべてのラミンの中でラミンCだけが迅速に集積するが、核膜孔複合体は、核膜の破損部に集積しないことを見出した。この研究成果は、責任著者となった研究論文として現在投稿中である(Kono et al., bioRxiv. doi: 10.1101/2022.01.05.475028)。
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Strategy for Future Research Activity |
最近の我々の研究結果から、スプライシングバリアントであるラミンAとラミンCのIg-foldドメインがともにBAFと結合するにもかかわらず、ラミンCは、核質に拡散する成分の方が多いことから、BAFによって核膜の破損部に迅速に運ばれやすいことが判明した(Kono et al., bioRxiv. doi: 10.1101/2022.01.05.475028)。また、この分子動態の違いは、ラミンCのC末端の6アミノ酸配列がラミンAとは異なることと無関係であった。そこで、ラミンCよりも長いラミンAのみが持つテール領域内に、ラミンAが核ラミナと強く結合して核質に拡散しにくくするドメインがあると考えられる。まず、mEmeraldと融合したラミンAの野生型またはラミンAのみが持つテール領域の一部を欠損した様々な変異型を発現させたLA/CノックアウトMEFの核膜をレーザー照射によって破損し共焦点レーザー顕微鏡を用いて生細胞観察を行い、核膜の破損部への集積を遅らせるドメインを決定する。また、プロテオミクス解析を行って、決定したドメインと結合する因子を同定する。さらに、同定した因子を過剰発現またはノックダウンしてラミンAの核膜の破損部への集積への影響を調べる。
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Causes of Carryover |
我々の予想外の発見として、すべてのラミンの中でラミンCだけが迅速に核膜の破損部に集積するが、核膜孔複合体は集積しないことを見出したことから、現在論文として投稿中である(Kono et al., bioRxiv. doi: 10.1101/2022.01.05.475028)。結果的に当初の実験計画の大幅な変更を余儀なくされ、予定していた当該年度の所要額を下回ってしまった。今後は、次年度使用額を用いて、上記に示したラミンAとラミンCの動態の違いを生み出すラミンAのみが持つテール領域内のドメインを決定する。また、プロテオミクス解析を行って、このドメインと結合する因子を同定し、これらの因子の過剰発現またはノックダウンが及ぼすラミンAの集積への影響を調べる。
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Research Products
(7 results)