2020 Fiscal Year Research-status Report
オーキシン共受容体の特異的相互作用を実現するタンパク質改変と酸成長誘導機構の解明
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20K06685
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高橋 宏二 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (40283379)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞膜H+-ATPase / オーキシン / 酸成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物ホルモンのひとつであるオーキシンは、植物の生活環全般をとおして自身の形態形成や成長を調節し植物体内外の環境変化に対する応答を仲介する。一般的に「酸成長」と呼ばれる胚軸伸長は最も古典的で最も有名なオーキシン作用であり、細胞膜H+-ATPaseの活性昂進が中核的な役割を果たしている。本申請研究ではオーキシン受容体TIR1/AFBから細胞膜H+-ATPaseの活性化へ至る過程の全貌を明らかとすることを目的としており、研究期間の前半は酸成長誘導の過程でTIR1と相互作用する因子の同定と、その目的を達成するためにcanonicalなオーキシンシグナル伝達機構の詳細解明のための革新的な研究ツールを開発することである。 今年度は、「改変型TIR1と改変型Aux/IAAのペア」を創出するため、Aux/IAAのデグロン配列およびその近傍のアミノ酸に変異を与えることにより、野生型TIR1と相互作用しない改変型Aux/IAAの選抜を試みた。続いて、オーキシン存在下で改変型Aux/IAAとの相互作用を回復するようなアミノ酸置換をTIR1に与え改変型TIR1を作成した。植物で期待通りの作用が認められるか検討するために、葉肉細胞プロトプラストを用いた一過的発現系を用いて検討しているところである。これにより、野生型Aux/IAAには相互作用しない改変型TIR1と、野生型TIR1/AFBに相互作用せず改変型TIR1にのみ相互作用する改変型Aux/IAAを創出し、この「改変型TIR1と改変型Aux/IAAのペア」を用いて任意のTIR1/AFB-Aux/IAAの組み合わせが駆動するオーキシンシグナル伝達を解析することを可能とする画期的な研究ツールの糸口を見いだすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オーキシン受容体であるTIR1とAux/IAAとの結晶構造に基づいて、それぞれの相互作用部位であるTIR1のオーキシン結合ポケットとAux/IAAのデグロン配列を中心に改変を施すアミノ酸の組み合わせを導きだした。改変した両タンパク質の相互作用は、in vitroプルダウンアッセイで検討し、数種類の組み合わせを見いだした。さらに効果的なアミノ酸変異を探索しつつ、葉肉細胞プロトプラストを用いた一過的発現系を利用して植物細胞内でも特異的な相互作用が認められるか検証をおこなった。この結果、導入したTIR1の発現量の多寡に応じて、オーキシン依存的なAux/IAAタンパク質の分解が認められない現象がみいだされたため、一過的発現に利用するプロモーターや添加するプラスミド量を適切に設定する必要があることがわかってきた。現在も最適な条件を設定するために試行錯誤しているところである。一方、酸成長誘導とオーキシン依存性遺伝子発現との関連性を検討するため、内生のAux/IAAと相互作用しない改変TIR1をシロイヌナズナに導入した植物体を作成した。現在、T2種子を取得した段階であり、今後、homozygous株を得て、組換え植物体を用いたオーキシン誘導性酸成長と遺伝子発現との関連性を明らかにする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ほぼ計画通りの進行状況であるため、今後の研究についても計画にもとづいて実施する予定である。すなわち、「改変型TIR1と改変型Aux/IAAのペア」の設計にもとづいて、シロイヌナズナのAux/IAA(29個)について改変型フォームをそれぞれ構築し、改変型TIR1と改変型Aux/IAAを共発現する植物体を作成して人工合成オーキシン誘導性の酸成長が引き起こされるTIR1-Aux/IAAペアを見つけ出す。Aux/IAAが酸成長誘導に関与することが示されれば、遺伝子発現調節を介した経路を経て酸成長が誘導されることを実験的に証明できる。一方で、内生のAux/IAAと相互作用しない改変型TIR1のみを導入した植物体で酸成長が誘導された場合、酸成長は非転写オーキシンシグナル伝達機構を介して誘導される可能性が高くなる。この場合、Aux/IAA以外の調節タンパク質が改変型TIR1と相互作用することが期待されるため、改変型TIR1と相互作用するタンパク質の同定を行い、新奇オーキシンシグナル伝達機構の解明に繋げる。さらに「改変型TIR1と29個の改変型Aux/IAAのペア」を用いて酸成長以外の様々なオーキシン作用についても検討し、シグナル因子の組み合わせがどのようなオーキシン作用を誘導するか明らかとする。
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