2020 Fiscal Year Research-status Report
植物の電子受容体NADP再生ボトルネックの解明―なぜ夜間に減少するのか?
Project/Area Number |
20K06695
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Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
橋田 慎之介 一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 上席研究員 (60516649)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光合成 / 葉緑体 / 電子受容体 / NADP / NAD |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は葉緑体NADP+減少メカニズムの解明とNADP+再生経路の同定を目的としている。光合成の重要な電子受容体であるNADPのプールサイズ(NADP+とNADPHの総和)は光条件によって大きく変動する。光合成をしない夜間などでは合成されず、その量は基底レベルであるが、光照射とともに合成が活性化されて葉緑体NADPプールサイズは最大となる。一方で遮光すると10分程度でNADPプールが減少するが、この減少メカニズムが明らかではない。本研究では、予備実験で確認した植物細胞中のNADP+脱リン酸化(NADPP)活性の分子実体を同定し、夜間におけるNADP+減少への関与を明らかにする。 本年度は葉緑体画分に局在するか否かを明らかにするため、多量の無傷葉緑体の継続的な分離収集を実施した。また、光強度変化および温度変化に対する葉緑体NADPプールサイズの応答等を評価し、NADP+減少速度からNADPP活性が最大となる条件を明らかにした。次に、当該条件で葉緑体画分にNADPP活性が存在する事を確認した。更に、次年度以降に予定していた、暗所におけるNADP+減少の意義を解明する実験を先行実施した。NADP+減少が遅延するinap1変異体のメタボローム解析を実施し、光条件に応答したNADP+とNAD+の相互変換が代謝順応に重要な影響を及ぼす可能性が示唆された また、NADP+合成基質となるNAD+のsalvage合成経路が、NADP+再正反応に寄与するかを明らかにするためニコチン酸ホスホリボシル基転移酵素(NPT)遺伝子の変異体を用いて、暗馴化後のNADP+光ダイナミクスを評価した。npt1およびnpt2のそれぞれ単独の変異体では野生型と同等の応答性が確認されたことから、2つのNPT遺伝子が冗長的に作用している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
環境条件によるNADPP活性変化を示唆する知見が得られたことから、次年度に予定する酵素タンパク質の分離精製が計画通りに実施できる状況にある。 さらに、次年度以降に予定していたメタボローム解析を一部先行実施したことで、光環境変化に対する代謝順応にNADP+の減少が重要な役割を担う可能性を初年度に見出した。本結果から、本研究の核心をなす「なぜ夜間にNADP+は減少するのか?」、という問いに対する部分的な答えが得られたと考えられる。したがって、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
酵素タンパク質精製のために既に多量の葉緑体画分を分離収集済みであるが、NADPP活性が最大となる条件で葉緑体画分を追加取得することで、実験確度を高める。酵素タンパク質精製後は質量分析に供試して分子実体の同定を試みる。また、NADP+減少が代謝順応に重要である可能性が見出されたことから、inap1変異体を用いて光条件変動時の呼吸活性等の生理学的データを取得する。
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