2020 Fiscal Year Research-status Report
植物の多細胞化と陸上進出に伴い進化したゲノム恒常性維持機構の解明
Project/Area Number |
20K06697
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
愿山 郁 東北大学, 生命科学研究科, 学術研究員 (10346322)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | DNA損傷 / 植物 / ゼニゴケ / DNA修復 / DNA損傷応答 / 転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は植物の進化的基部に位置するゼニゴケでの、DNA損傷に対する応答性を検討した。無性芽から10日目のゼニゴケに50GyのX線を照射したところ、ゼニゴケの生育は阻害され、7日目くらいからメリステム部分が黒く変色してきた。しかし14日目くらいから黒く変色した部分から新たな組織が再生しはじめ、21日目には全体的に元気に生育した。シロイヌナズナの芽生えに放射線を照射すると、葉の生育は一時的に停止した後、また再開するが、新たな組織は再生しない。このことから、ナズナと比べるとゼニゴケのメリステムは放射線照射に弱いが、再生能力が高く、ナズナとは異なった方法で対処していると考えられた。シロイヌナズナがDNA損傷を受けると、1000以上の遺伝子の転写量が変化する。その転写制御を一手に担っているのがSOG1転写因子(NAC型)であるが、SOG1とアミノ酸配列が似ているタンパク質がゼニゴケにも存在する(MpSOG1-like)。そのMpSOG1-likeがゼニゴケにおいてもDNA損傷に応答した遺伝子群の転写制御に関与しているのかどうかを調べるため、CRISPR-CasシステムによりMpSOG1-like機能欠損体を作製した。そしてMpSOG1-like機能欠損体のX線感受性を調べたところ、野生型よりも強い感受性を示し、MpSOG1-likeがDNA損傷を受けた際に重要な役割を果たしていることが予想された。次にMpSOG1-like:GUSラインを作製し、MpSOG1-likeが機能している組織を調べたところ、無性芽から7日目までは仮根の付け根と、葉状体のメリステム周りでMpSOG1-likeタンパク質の発現が認められたが、それ以降には発現部位が葉状体全体に広がっていた。この結果より、MpSOG1-likeタンパク質の発現部位が生育とともに変化することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゼニゴケにおけるX線感受性を調べ、ゼニゴケはシロイヌナズナよりも放射線に対してより感受性を示すが、新たな組織の再生能力が高いことを明らかにした。同じコケ類であるヒメツリガネゴケは、放射線に抵抗性を示すため、同じコケでも種が異なるとDNA損傷に対する応答が異なることがわかった。さらにCRISPR-CasシステムによるゼニゴケにおけるSOG1類似遺伝子の欠損体の作製が順調であり、その変異体のX線感受性について調べることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、RNA-seq法により、X線照射後に野生型ゼニゴケで遺伝子の転写制御が大規模に変化しているのかどうかを調べる予定である。またMpSOG1-like欠損体でも同様の解析を行い、それらの転写制御を野生型と比較することによって、MpSOG1-likeがどの程度、野生型における遺伝子群の転写制御に関与しているのかを明らかにする。X線照射によって、どのような機能の遺伝子の発現が上昇、または低下していることを知ることで、ゼニゴケが持つ独自のDNA損傷応答の理解と、MpSOG1-likeが制御する遺伝子群について検討する。MpSOG1-like遺伝子をシロイヌナズナsog1欠損体に形質転換導入し、ナズナでのsog1欠損によるDNA損傷応答の欠損がMpSOG1-likeの導入によって相補されるかどうかを調べることで、MpSOG1-likeがシロイヌナズナでも機能するのかどうかを明らかにする。これによりSOG1タンパク質の働きが種間で保存されているのかどうかを検討する事が出来る。
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Causes of Carryover |
本年度に計画していたRNA-seqの実験が次年度に持ち越されたため、物品費の使用が予定よりも少なかった。また参加を予定していた学会が、中止になったりオンラインになったため、旅費の経費も必要なくなった。
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