2021 Fiscal Year Research-status Report
植物の多細胞化と陸上進出に伴い進化したゲノム恒常性維持機構の解明
Project/Area Number |
20K06697
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
愿山 郁 東北大学, 生命科学研究科, 特任研究員 (10346322)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ゼニゴケ / DNA損傷 / DNA修復 / X線 / DNA損傷応答 / ゲノム維持 |
Outline of Annual Research Achievements |
シロイヌナズナSOG1は、DNA損傷が生じた際に、数千の遺伝子の転写変動の制御を統括している転写因子であり、細胞を正常に維持するために重要な働きをしている。ゼニゴケにもSOG1とアミノ酸配列に相同性が認められるタンパク質が存在するが(MpSOG1-like)、MpSOG1-likeが実際にナズナSOG1と同じような機能を持っているかどうかは不明である。本年度は、MpSOG1-like-Citrine形質転換体を用いて、MpSOG1-likeの発現組織と、細胞内での発現部位を調べた。その結果、MpSOG1-likeはゼニゴケ葉状体のメリステム周辺の細胞の核に局在していることが明らかになった。つまりMpSOG1-likeは活発に細胞分裂を行っている重要な組織で機能しているということが示された。また昨年度に作製したゼニゴケMpSOG1-likeの機能欠損体にX線を照射し、RNA-seq法によってゲノムワイドな転写制御がどのように変化しているのかを調べた。野生型ゼニゴケにX線を照射すると、2時間後には3000ほどの遺伝子の転写量が変動しており、その約半分がMpSOG1-likeに依存していることが明らかになった。ナズナではDNA修復に関わる遺伝子や、細胞周期の進行を制御するような遺伝子群がSOG1に依存して制御されているが、ゼニゴケでは、このような遺伝子はほんの一部しかMpSOG1-likeによって制御されておらず、MpSOG1-likeに制御されている遺伝子のほとんどは機能未知な遺伝子であった。ゼニゴケにおいて、DNA修復や細胞周期の停止に関与する遺伝子群のほとんどは部分的にMpSOG1-likeによって制御されているか、MpSOG1-like以外の因子によって制御されていると考えられた。この結果は、ナズナとゼニゴケでは同じSOG1関連タンパクを保持しているが、DNA損傷に対する応答のシステムは両者で異なっていることを意味している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたゼニゴケにおけるRNA-seq解析を行って、野生型ゼニゴケがX線照射によって転写量を変動させる遺伝子群を明らかにすることができた。さらにMpSOG1-like依存的な遺伝子群、MpSOG1-like非依存的な遺伝子群を同定した。この結果を解析することにより、MpSOG1-likeがどの程度、野生型のゼニゴケにおける遺伝子群の転写制御に関与しているのかを明らかに出来た。よって本年度は、ゼニゴケが持つ独自のDNA損傷応答の理解と、MpSOG1-likeが制御する遺伝子群について示すことが出来た。またこれまでのシロイヌナズナでの結果と比較することにより、ナズナでのDNA損傷応答と、ゼニゴケにおけるDNA損傷応答の違いを示し、陸上植物の進化において基部に位置するゼニゴケと、末端に位置するシロイヌナズナが持つDNA損傷応答がどのように変化したのかの理解につながる手がかりが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
シロイヌナズナでは、DNA損傷に応答して、SOG1のSQアミノ酸配列のセリンがリン酸化され活性化する。ゼニゴケMpSOG1-likeにもSQ配列が1つ存在する。そこで今後は、ゼニゴケMpSOG1-likeもDNA損傷に応答してリン酸化されるかどうかを検討する。MpSOG1-like-Citrine形質転換体を用いてCitrine抗体でMpSOG1-likeのリン酸化を検出する。またMpSOG1-like遺伝子をシロイヌナズナsog1欠損体に形質転換導入し、ナズナでのsog1欠損によるDNA損傷応答の欠損がMpSOG1-likeの導入によって相補されるかどうかを調べることで、MpSOG1-likeがシロイヌナズナでも機能するのかどうかを明らかにする。これによりSOG1タンパク質の働きが種間で保存されているのかどうかを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
学会がオンラインになったため、旅費の支出が無かった。またRNA-seqに関わる費用も、他大学との共同研究として実施することが出来たため、費用が抑えられた。 これらの費用は、次年度のゼニゴケでのタンパク実験などの費用に充てる予定である
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