2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K06723
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
山中 明 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (20274152)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | チョウ類 / 表現型可塑性 / 蛹体色 / 季節型 / 神経内分泌因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は各種チョウ類の蛹期の表現型可塑性の検討を行った。計画に従い、モンキアゲハの蛹は体色多型の発現調節に関わる環境要因や内分泌機構は不明であり、その詳細を詰めた。蛹化場所の直径の違いならびに蛹化面の粗滑を組み合わせた条件を用意した。短日および長日老熟幼虫を異なる各条件下で蛹化させ、蛹の体色を判定した。休眠蛹および非休眠蛹のいずれにおいても、蛹化場所の直径が小さいと緑色型の蛹の出現割合が大きくなり、直径が大きいと褐色型の蛹の出現割合が大きくなった。また、蛹化面の粗滑の違いによる蛹体色の出現割合に違いは認められなかったため、モンキアゲハの蛹の体色発現に影響する主要な環境要因は、蛹化場所の曲率によって決定されることが示唆された。蛹化面の粗滑が蛹体色に及ぼす影響については今後さらに検討する必要がある。本種の蛹体色の基本型は緑色型であり、発生ステージが前蛹期P-4以降に、褐色化を誘導する因子が分泌されることがわかった。モンキアゲハ5齢幼虫の脳神経節連合体から3種類の粗抽出液を調製し、1検体につき50頭脳神経節相当量をモンキアゲハ短日前蛹の結紮腹部に投与した。その結果、2% NaCl 水溶液粗抽出画分を投与した個体の結紮腹部は褐色化した。以上のことから、モンキアゲハ5齢幼虫の脳神経節に存在する褐色化促進因子は蛹表皮褐色化ホルモン 様因子であることが示唆された。同様に、ナガサキアゲハやシロオビアゲハの蛹体色調節機構についても環境要因、内分泌調節機構の一端が明らかとなった。さらに、ウラギンシジミの蛹体色調節機構についても調査中である。別に、ルリタテハ成虫において、普通鱗(脚表面)の色彩変化が認められたので、内分泌学的・生態学的な側面から検証・追試を試みているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アゲハチョウ類の蛹体色の表現型可塑性について、本年度、モンキアゲハの蛹体色発現調節機構に影響を及ぼす環境要因の一部も明らかとなった。また、ミカン科の葉を食草とするために大量飼育が難しいナガサキアゲハの蛹体色発現機構についても順調に解析が進んだ。本研究課題に取り組む中で、移動が制限されていたこともあり、表現型可塑性の各種形質の変化に地域差が生じていないかを調査できていないが、これまで見つかっていなかった表現形質の変化も見つかってきており、計画はおおむね順調に進展している状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ある種のシジミチョウ・タテハチョウ類の幼虫・蛹・成虫の発育ステージで、これまでに知られていない表現型可塑性を示すことが予備的調査で明らかになりつつある。今後、これらのチョウ類の新奇表現型可塑性の調節機構を解析していく。また、毛状鱗粉・鱗粉微細構造の異なる成虫は、生息する環境温への温度耐性が異なる可能性が高く、ベニシジミ成虫では、青森個体と山口個体では温度耐性が異なる予備的な観察結果がある。そのため成虫の温度耐性の地理的な変異も明らかにしたい。特に、鱗粉の微細構造、体表面等を詳細に調査していくことを進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
実験の制限により消耗品の消費が進まなかったこと、研究成果・発表旅費および調査旅費がコロナ禍においてオンライン開催となったこと、また、論文作成の遅延により、論文校閲・投稿料の未執行が生じたことが次年度使用額が生じた大きな理由である。使用計画として、令和4年度、複数台の昆虫飼育用インキュベーターが故障し、研究遂行に支障をきたすので次年度に修理を予定。消耗品費・調査旅費・学会旅費ならびに論文校閲料等に使用する予定である。
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