2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K06725
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
吉川 伸哉 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (20405070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
根本 理子 岡山大学, 環境生命科学研究科, 助教 (30625926)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞壁 / バイオミネラリゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
パルマ藻とケイ藻の共通の特徴は、シリカを主成分とする細胞壁を持つことである。これまでのケイ藻を用いた研究で、シリカと共に細胞壁を構成するタンパク質は複数発見されているが、ケイ藻では、細胞壁を持たない細胞を人為的に作ることが困難であるため、それらのタンパク質の細胞壁形成時における細胞内での役割は十分に解明されていない。本研究では、ケイ藻とは異なり任意に細胞壁合成を制御することが可能なパルマ藻を用いて、シリカの細胞壁の形成機構を明らかにするため、細胞壁欠損株スクリーニング・トランスクリプトーム解析 (RNA-seq解析)・生化学的解析・ゲノム解析により細胞壁形成に関わる遺伝子を同定する。R2年度は、主としてパルマ藻でゲノム解析により見出されたシリカニン様タンパク質に着目し解析を進めた。 シリカニンは、Thalassiosira pseudonanaで発見されたケイ素重合に関わるタンパク質である。これまで報告されたケイ藻のシリカ重合に関わるタンパク質は保存性が低く、ケイ藻全般で保存されているシリカ重合関わるタンパク質は見つかっていなかった。シリカニンはケイ藻の多くの種が持つタンパク質であるため、ケイ藻のシリカ素重合において中核の役割を担うと考えられており、ケイ藻のシリカ重合能の獲得の観点からも興味深いタンパク質である。我々はパルマ藻の複数種においてシリカニンと類似性の高い遺伝子(シリカニン様遺伝子)があることを見出し、パルマ藻におけるシリカニン様遺伝子の機能を解明するため、系統解析とパルマ藻がもつシリカニン様遺伝子の局在解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2次構造の比較と系統解析 ケイ藻のシリカニンは、1)アスパラギン酸(N)とグルタミン(Q)を多く含む(NQリッチ)2) N末端側にシグナルペプチドと多くのケイ素重合関連タンパク質に保存されているRXLモチーフを含む、3) C末端側には2カ所の膜貫通領域を含む、パルマ藻Triparma laevisのゲノムに含まれるシリカニン様タンパク質(TLsilicanin)は、T. pseudonanaのシリカニンと高い類似性(E-value 2e-22)を示し、 NQリッチではないが残りのN末とC末の特徴は保存されていた。The Marine Microbial Eukaryotic Transcriptome Sequencing Project (MMETSP)データベースからシリカニン類似遺伝子を探索し、パルマ藻6種がもつシリカニン様遺伝子とともに系統解析を行った。多くのケイ藻は、シリカニンのほかに、パルマ藻のシリカニン様遺伝子と同様に、NQリッチではないがシリカニンと類似性が高い遺伝子を保持していることが示された。その結果シリカニン・シリカニン様遺伝子は、シリカニンクレード(NQリッチ)、多くのケイ藻が持つシリカニン様クレード、パルマ藻のシリカニン様遺伝子だけで構成されるパルマシリカニン様クレードの3つからなることが示された。 局在解析 TLsilicaninのC末端にGFP遺伝子を結合し、遺伝子導入法が確立されているケイ藻T. pseudonanaに導入し、TLsilicaninがT. pseudonana細胞において細胞壁に局在するのかを調べた。その結果、TLsilicaninは細胞壁での局在はみられず、葉緑体への局在が観察された。TLsilicaninが細胞壁に局在する意義については、現在検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
生化学的アプローチ 生化学的アプローチからシリカ重合に関わるタンパク質を探索するため、昨年度からパルマ藻細胞の大量培養と細胞回収、凍結保存を実施している。凍結保存した細胞からSDS可溶性成分を除去し、細胞壁画分を調整する。フッ化水素処理によりシリカを除去し細胞壁に含まれるタンパク質を回収する。電気泳動法によるタンパク質の分離とLC-MS/MS分析を行い、結果を全ゲノム情報と比較し、シリカと共に細胞壁を構成しているタンパク質を同定する。 発現量解析と生物情報学の組み合わせによるアプローチ これまでに得られている細胞壁を持つ細胞と持たない細胞間の遺伝子発現量の解析の結果と生物情報学的アプローチを組み合わせて、1)培養液にケイ酸を加えたシリカの細胞壁を合成可能な条件で発現量が上がっている2)シリカ重合に関わるタンパク質に共通にみられるRXLモチーフを持つ、3)アミノ酸組成(シリカの細胞壁合成に関与するタンパク質の多くは、保存性が低く1次構造による相同性探索は難しいが、ケイ藻ではリシンとセリンを多く含むことが知られている)の3つの条件を組みあわせて、シリカ重合に関わる遺伝子を類推する。 以上の方法で細胞壁形成との関係が類推されたタンパク質について、リアルタイムPCR及びウエスタンブロッティングによる細胞壁形成時の発現量の解析、蛍光抗体法を用いたパルマ藻細胞内の局在解析、T. pseudonana細胞の異種発現系を用いた局在解析を行い細胞壁形成との関係を詳細に検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で、研究打ち合わせや学会参加が遠隔とこと、上半期の研究室への入室制限のため予定していた実験ができなかったことによる
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Research Products
(2 results)