2021 Fiscal Year Research-status Report
Regulation of amphibian hematopoiesis: the distribution of hematopoietic stem cells in the liver, spleen, and bone marrow.
Project/Area Number |
20K06729
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
加藤 尚志 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80350388)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前野 貢 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10190315)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 造血 / 造血幹細胞 / 両生類 / 造血幹細胞 / 造血因子 / オミクス / アフリカツメガエル / ネッタイツメガエル |
Outline of Annual Research Achievements |
ツメガエル(ゼノパス)の成体の造血は,肝臓,脾臓,骨髄の複数の造血器が分担して血球を産生する。そのため複数造血器の役割分担や組織環境の違いを解明するための魅力ある研究対象である。ツメガエルの各血球,すなわち赤血球,白血球,栓球(哺乳類の血小板の機能を担う細胞)はいずれも造血幹/前駆細胞(HSPC)が起源である。本研究では複数の造血器に存在するHSPCの特性の解明と分離法を確立しつつある。第2年度では第1年度で検討した細胞膜蛋白質を網羅的に同定するプロテオミクスにおいて、試料調製における界面活性剤処理の条件をさらに検討した。例えば飼育温度環境が異なるアフリカツメガエルの赤血球膜蛋白質をモデルにすると,飼育温度の違いによって,量的変動を示す赤血球膜上の膜蛋白質が比較解析可能になった。従ってこの方法を適用して複数臓器間のHSPC膜発現分子の差異が検出可能であると考えた。また細胞にレーザー光を照射して得られる散乱光とモノクローナル抗体2種の結合による蛍光を利用するフローサイトメトリーを用いて、肝臓HSPCの分離法を検討した。再現性の確保が課題になるがN/C比が大きく未分化な細胞形態をもつ集団は,実験実施者に依存せずに再現性良く分離可能であった。このように進捗していたところ,シングルセルRNA-Seq(scRNA-seq)法によって1細胞単位で発現する全mRNAを同定,定量,分類する報告が相次いた。本研究の発展にとって,これらの新手法は大きな貢献をもたらすと判断し,特に肝臓,骨髄のHSPCを対象とするscRNA-seqを実現するための準備に入った。そのうち肝臓,骨髄それぞれの臓器からmRNAを回収するプロトコルをほぼ確定し,まずバルクmRNA解析に着手した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
造血器であるアフリカツメガエル肝臓のHSPC細胞は非常に僅かで1000分の1以下であり、フローサイトメーター(FACS Aria III)を利用する分離(ソーティング)では安定して数時間以上を要する。このため末梢赤血球の除去による分離負担の軽減などを検討した。また各種パラメータの設定で分離結果が微妙に変動するため、分離再現性の安定性を確認した。この結果、ツメガエル成体の造血器からHSPC候補となる「トロンボポエチン受容体MPL認識抗体陽性かつ栓球認識T12抗体に陰性かつ前方散乱光(FSC)が小さい細胞集団(MPL+T12-FSClow 細胞)」、あるいはヘキスト33342蛍光色素低染色性の「Side Population細胞」の純化方法の再現性はほぼ確立した。HSPCの発現分子のLC-MS-MSによるプロテオーム解析ないしRNA-Seqの検討を進めた。前者のプロテオミクスは試料必要量と分子同定数の限界を乗り越える必要があるが、比較すれば後者のRNA-seqは試料量と同定数の点で有利である。各々の利点を活かして、大量に獲得する分子データの解析と解釈の方法に対応するために、鹿島誠博士、平田普三博士(青山学院大学)にご教授いただき、集中的にR言語ベースの解析法の修得を進めた。mRNA試料の質はRNA-seqの解釈の精度を高める上で非常に重要になる。そこでアフリカツメガエルの肝臓と骨髄のmRNAを抽出法について、液相抽出法、固相抽出法それぞれ複数を検討した。肝臓では臓器に残存する末梢血球混入の扱い、骨髄ではビーズ破砕法による硬組織(骨組織)の扱いを考慮する必要があるが、再現性良く質、量ともにRNA-seqのための良好な試料を得るプロトコルが完成した。これらのことから、当初の計画で想定した手順の変更があり、未着手の項目があるものの、ゴールに向かう研究展開としては概ね順調の実感がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
第1年度は,新型コロナウイルス感染防止のために広範な社会的制約が発生し、各種実験が停滞してしまったが、第2年度では世界的なサプライチェーン枯渇の影響を受けて実験機器や資材の納期遅延が発生し、予定変更を余儀なくされた状況があった。この影響もあってHSPC候補細胞マーカーの同定と抗体作出の着手が遅れ、in vitroコロニーアッセイによる細胞増殖・分化特性の確認は第1年度から遅延する状況は続いている。またプロテオミクス試料の調製に目途はたったが、使用するLC-MS-MSの老朽化が問題化している。しかしこの間、勃興しつつあるRNA-seq、scRNA-seq手法の様々な情報がオンライン交流を通じてもたらされ、本研究で取りうる手段の取捨選択や、理論的背景を強化することができたことは意義が大きい。第3年度ではRNA-seqによるHSPC特異的分子の探索と、その結果をプロテオミクスによる検証に進める。これらの検討はアフリカツメガエルで進めたが、将来の2倍体動物での幹細胞検討を進めることを想定し、ネッタイツメガエルのHSPCの検討も並行して始める。こうした研究成果を獲得して整理し、早急に研究コミュニティと共有することで両生類幹細胞科学の発展に貢献したい。
|