2021 Fiscal Year Research-status Report
アマガエル着地行動における行動計画と実時間視覚情報処理による協調制御
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20K06741
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
中川 秀樹 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (80212083)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 着地行動 / 前肢伸展行動 / 実時間視覚情報処理 / 行動計画 / 高速度ビデオ撮影 / オプティックフロー刺激 / アマガエル / 画像解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度には、アマガエルの着地行動における前肢伸展行動の発現が、令和2年度にその存在を証明した行動計画だけでなく、実時間の視覚情報処理によって、修正制御を受けている可能性について調べた。そのために、静止した同心円、速度50cm/sで遠ざかる同心円をシミュレートした動画、速度100cm/sで遠ざかる同心円をシミュレートした動画に向かって、ソレノイドによる機械刺激により発現したジャンプを撮影した。高速度カメラの撮影開始、ソレノイドによる機械刺激の開始、及び、オプティックフロー刺激の開始を同期した実験系を構築し、その前肢伸展行動の発現タイミングを測定し、統計的に比較した。その結果、前肢伸展遅延時間はそれぞれ、52.5±7.5ms、70.3±10ms、70.4±11.8ms(平均±標準偏差)となり、分散分析及び多重比較の結果、静止画よりも2種類の速度のオプティックフロー刺激では遅延が有意に大きくなることが認められた(p<0.05)。しかしながら、2種類の速度のオプティックフロー刺激の間には有意差はなかった。この結果は、アマガエルが前肢伸展行動のタイミング制御にリアルタイムの視覚情報を利用しているため、着地面が遠ざかっていく刺激のシミュレーションに対しては、前肢伸展の開始時間が遅れることを示している。しかしながら、2種類の速度で遠ざかる刺激のシミュレーションで有意差がなかったのは、アマガエルが両者を見分けることができなかったという可能性を示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、ソレノイドによる機械刺激により誘発された行動計画を伴うジャンプの前肢伸展行動と、スライディング装置による強制的な着地行動における前肢伸展行動の振幅と遅延時間を測定、比較することで、着地に備えた適応的な前肢伸展行動の発現に、行動計画が必要かどうかを調べた。その結果、前者では、振幅の大きな、遅延時間の長い一定のタイミングで発現する前肢伸展行動が観察されたが、後者では、振幅の小さい、遅延時間が短く、発現タイミングの変動の大きな前肢伸展行動しか観察されないことが分かった。この事により、着地準備行動としての前肢伸展行動の発現には行動計画が必須であることを示すことができた。令和3年度は、前肢伸展行動は、行動計画によってのみ制御されるのか、あるいは実時間の視覚情報処理もタイミング制御に用いられるのかを明らかにするために、着地面に人工的オプティックフロー刺激を提示することで、前肢伸展行動の発現タイミングに影響が見られるかどうか調べた。その結果、着地面が遠ざかる状況をシミュレーションしたオプティックフロー刺激に向かった着地行動での前肢伸展行動の遅延時間は、静止画に向かった着地行動に比べて有意に大きくなることが分かった。この事により、適応的な前肢伸展行動の発現には行動計画に加え、実時間の視覚情報処理が利用され、両者が協調的に機能することで、より正確なタイミングでの発現を可能にしているという可能性を示すことができた。以上の研究成果より、補助事業期間中の研究実施計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究で、静止画と2種類のオプティックフローを提示した着地面への前肢伸展行動の遅延時間には、有意差が見られたが、速度50cm/sと100cm/sで遠ざかる同心円をシミュレートしたオプティックフローの間では有意差が見られなかった。そこで、これらの刺激が実際にカエルにとってどの様に見えているのかを、カエルのジャンプ速度の変動を考慮して理論的に計算してみた結果、ジャンプ速度によっては、両者の刺激の時間経過が重なることがわかった。このことは、アマガエルにとって、この2種類の速度で後退するオプティックフローは同じに見え、違いを識別することができなかったという可能性を示している。そこで、これからの研究では、実際にカエルの網膜に映る同心円の大きさの時間変化を、カエルのジャンプ速度の変動を考慮のうえ、理論的に計算し、その時間経過が重なることのないオプティックフローの速度を選択し、実験を実行する。計算の結果、静止した同心円、速度144cm/sで遠ざかる同心円、速度100cm/sで接近する同心円のカエルの網膜像の大きさの時間経過は重ならないことが分かった。そこで、静止した同心円、速度144cm/sで遠ざかる同心円をシミュレートした動画、速度100cm/sで接近する同心円をシミュレートした動画に向かって、ソレノイドによる機械刺激により発現したジャンプを撮影する。高速度カメラの撮影開始、ソレノイドによる機械刺激の開始、及び、オプティックフロー刺激の開始を同期した実験系を使用して、その前肢伸展行動の発現タイミングを測定し、統計的に比較することで、前肢伸展行動のタイミング制御に実時間の視覚情報処理が重要な役割を果たすことを示すさらなる証拠を得る。
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Research Products
(1 results)