2020 Fiscal Year Research-status Report
体温と代謝をつなぐ体温センサーTRPM2機能制御機構の解明
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20K06748
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
加塩 麻紀子 愛知医科大学, 医学部, 講師 (20631394)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 体温 / TRPM2 |
Outline of Annual Research Achievements |
Transient receptor potential melastatin 2(TRPM2)チャネルは、体温域の温度による活性化を受ける温度感受性チャネルであり、体温調節への関わりも報告されたことから、体温を基軸とした代謝機能調節へのTRPM2の寄与が強く示唆されている。一方でTRPM2は、脳、膵臓、免疫細胞等の一定の体温に保たれた組織及び細胞に発現しており、体温下において体温センサーとして機能し、種々の生理機能調節に関与すると考えられる。 研究代表者はこれまでにレドックスシグナルによりTRPM2の活性化温度閾値が調節されることで、体温下のTRPM2機能が調節されることを明らかにしてきた。加えて、タンパクリン酸化酵素の働きによりTRPM2のリン酸化が起こることを見出し、複数経路によるTRPM2機能調節の可能性が示唆されている。前述のとおり、TRPM2は種々の組織及び細胞に発現しており、体温下で様々な生理機能の調節に関わると考えられるが、体温下でのTRPM2活性がどのようにして調節されているのかについては、未解明な点が残されている。またその生理的役割に関する報告は、インスリン分泌、免疫機能等の一部に限られており、体温下TRPM2活性の生理的役割の全容解明は様々な疾患の治療戦略への応用が期待される。 本研究では、分子生物学的・生化学的手法および電気生理学的手法といった種々の研究手法を駆使した検討を行うことで、体温センサーTRPM2の活性調節機構を明らかにするとともに、その生理機能として特に代謝調節における役割を解明することを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
プロテインキナーゼC活性化により生じるTRPM2リン酸化の分子基盤を明らかにするために、リン酸化予測プログラムNetPhosで検出されたセリン、スレオニン残基にアラニン置換を導入し、リン酸化の程度により移動度が低下するPhos-tag SDS-PAGE法を用い、各アミノ酸残基のTRPM2リン酸化への寄与を検討した。Phos-tag SDS-PAGEで認められるバンドシフトが消失する、もしくは減弱するものをPKCによるTRPM2リン酸化の候補部位として検出したところ、TRPM2のアミノ末端に位置するスレオニン残基がリン酸化候補部位として同定された。同定されたスレオニン残基は、TRPM2の内因性リガンドであるAdenosine diphospho ribose(ADPR)の結合部位(Elife; 2019, e50175)に近接していたことから、TRPM2単独発現HEK293T細胞を用いた全細胞電流測定により、ADPR活性化TRPM2電流への影響を検討した。その結果、PKC活性化剤であるフォルボールエステル(PMA)処置により低濃度のADPRにより誘発されるTRPM2電流が有意に増加することが明らかになった。しかしながら、リン酸化候補部位であるスレオニン残基をアラニン置換したリン酸化欠失変異体、グルタミン酸に置換したリン酸化模倣変異体は、いずれもADPRによるTRPM2活性化が減弱しており、当該スレオニン残基のリン酸化によるTRPM2活性制御への寄与を明らかにすることができなかった。一方、TRPM2リン酸化によるTRPM2活性化温度閾値への影響を検討したところ、PMA処置により活性化温度閾値の上昇が認められ、TRPM2リン酸化はTRPM2機能に対して多彩な修飾を行う可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、これまでにTRPM2のメチオニン酸化が活性化温度閾値の調節にかかわることを示してきた。今回PKCによるTRPM2リン酸化候補部位として明らかとしたスレオニン残基および上述のメチオニン残基はいずれも、ADPR結合部位の近傍に位置することから、これらの領域が閾値調節ドメインを形成している可能性が示唆される。今後、これらの修飾によるTRPM2活性化温度閾値調節の分子基盤を分子生物学的・生化学的手法および電気生理学的手法を駆使して詳細に検討することを予定しており、体温センサーTRPチャネルの活性化温度閾値が如何にして決定されるのかという、イオンチャネル研究領域の広くから多大な興味がもたれる疑問の解明に迫る研究展開を目指したい。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染拡大による自粛期間により出張を伴う実験が停滞する時期が生じたため、当初の予定よりも予算の執行額が少なかったため次年度に繰り越した。令和3年度より、所属機関が変更になり、研究推進に必須となる電気生理学実験機器を常時使用できる環境となったため、研究推進の遅延は解消できるとともに繰り越した予算を最大限に活用することで、本研究の推進につなげることができると考える。
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Research Products
(2 results)