2020 Fiscal Year Research-status Report
カタユウレイボヤ卵巣におけるプロスタグランジンの作用と分子ネットワークの解明
Project/Area Number |
20K06752
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Research Institution | Suntory Foundation for Life Sciences |
Principal Investigator |
川田 剛士 公益財団法人サントリー生命科学財団, 生物有機科学研究所・統合生体分子機能研究部, 主席研究員 (90300821)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
笹倉 靖徳 筑波大学, 生命環境系, 教授 (10400649)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プロスタグランジン / カタユウレイボヤ / 卵巣 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊椎動物では、HPG 軸 (視床下部/下垂体/生殖腺)の制御の元、プロスタグランジン(PG)が排卵を誘発する。HPG 軸が確立していない無脊椎動物の1種であるカタユウレイボヤでは、卵巣での PG の存在が示唆されているが、その生物学的役割は不明である。本研究ではHPG 軸の確立していないカタユウレイボヤで、卵巣における PG の生物学的役割とその分子機構を解明することを目指している。 2020年度は、PG の作用点である PG 受容体の解析を行うことで、PG の生物学的役割を解明する足掛かりを構築することを試みた。すなわち、カタユウレイボヤの PG 受容体が PG と相互作用して引き起こすシグナル伝達経路を明らかにするために、同受容体を昆虫培養細胞に発現させてPGを投与したところ、同受容体の活性化は Ca2+シグナリング経路と cAMP 上昇シグナリング経路の双方を誘起することが示唆された。また両経路の反応とも、PGE2が強い応答を誘起したことから、PGE2 が PG の主体として、カタユウレイボヤで機能することが示唆された。 次に、カタユウレイボヤ卵巣内のどのような卵胞に PG 受容体が存在するかを調べるために、同ホヤの卵胞を網目の異なるふるいを用いて卵胞を大きさごとに分別し、どの大きさの卵胞に PG 受容体遺伝子が発現するかについて、RT-PCR で調べたところ、直径 38 マイクロメートル以上の卵胞に満遍なく PG 受容体遺伝子が発現することが示唆された。これらの大きさの卵胞は、卵黄形成前の卵胞から排卵する卵胞までの卵胞に相当し、PG が各卵胞の成長段階に応じて複数の生理機能を有することが、本結果により推測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を始めるにあたり、カタユウレイボヤで、① どの種類のプロスタグランジン (PG) が、 ② どの成長段階の卵胞でどのような分子と関連して、③ 卵巣で機能するかを明らかにし、④ その効果を in vivo で示すことで、カタユウレイボヤの PG の生物学的役割を決定し、PG を中心とした生殖分子機構を解明することを計画した。2020年度においては、① どの種類の PG が ② どの成長段階の卵胞で機能するかについて、解明しようと試みた。 ① に関しては、カタユウレイボヤの PG 受容体を昆虫培養細胞に発現させて、PG と相互作用させたところ、PGE2 が PG 受容体の応答を介して、Ca2+ シグナリング経路および cAMP 上昇シグナリング経路の双方を誘起することが示唆された。当初の予定では、カタユウレイボヤPG受容体の合成アゴニストやアンタゴニストのスクリーニング実験を行う計画であったが、現在そこまでは至っていない。② に関しては、カタユウレイボヤ卵胞の RT-PCR 実験を行うことにより、PG受容体遺伝子が卵黄形成前の卵胞から排卵する卵胞までの卵胞に満遍なく発現することが示唆された。 2021年度以降は ① の合成アゴニストおよびアンタゴニストの探索、③ の卵巣機能解析、④ の in vivo 解析に移行していく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の開始時の計画では、大きさごとに分別したカタユウレイボヤ卵胞の RT-PCR を行い、プロスタグランジン (PG) の受容体遺伝子が多く発現する大きさの卵胞を特定することで、その後の PG 投与実験の標的卵胞を決定することを予定していた。しかしながら、RT-PCR 実験の結果、PG 受容体遺伝子が広範囲の大きさの卵胞に発現することが示され、投与実験の標的卵胞の選定が難しくなった。そのため、カタユウレイボヤ卵胞へ PG 投与による形態観察実験は、卵核崩壊前の卵胞と排卵前の卵胞を候補とし、PG 投与により卵核崩壊や排卵に影響があるかに着目して形態観察を行う。また、PG 受容体遺伝子破損ホヤの作製にも着手する。
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Causes of Carryover |
2020年度にカタユウレイボヤPG受容体の合成アゴニストおよびアンタゴニストのスクリーニング実験を行う予定だったが、2021年度に繰り越した。同実験は数千円から数万円の合成アゴニストおよびアンタゴニストを購入する必要があり、スクリーニングに用いる蛍光試薬等の購入にも費用がかかるため、使用額の誤差が発生した。
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