2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K06754
|
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
宮本 教生 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究プログラム), 研究員 (20612237)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 幼生 / 行動 / ホネクイハナムシ / 深海 / 神経系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では深海底に沈んだクジラの骨に特異的に生息するホネクイハナムシをモデルとして,限られた環境にのみ生息する生物の幼生分散メカニズムとその背景にある神経制御を明らかとする研究である.令和2年度は①発生段階ごとの幼生遊泳パターン,②幼生の神経系とその発生過程を,神経マーカーや神経伝達物質の抗体染色やマーカー遺伝子の発現パターンにより明らかとすることを目的として研究を遂行した. 幼生遊泳パターンに関しては発生段階ごとに遊泳行動をCCDカメラで撮影し,撮影条件などの条件検討を行った.その結果,底面1cm x 1cm,高さ4cmの小型水槽の中で,幼生を個体レベルで撮影する条件が整った.一方で後述の理由により,行動解析に行うための十分なデータを得ることはできなかった. 神経解剖学的研究については,様々な発生段階ごとに免疫組織化学・遺伝子発現・電子顕微鏡観察を行うためのサンプルの固定を行った.一部のサンプルについて神経マーカーの抗体染色を行った後に共焦点顕微鏡による観察,また透過型電子顕微鏡観察を行い,固定や染色条件の検討を行った.その条件を用いて神経マーカーの抗体染色についてはほぼ半数の発生段階についてデータを得ることに成功した.また神経マーカー遺伝子や環境受容に関する遺伝子など8遺伝子のクローニングを行った.一部の遺伝子について in situ hybridaztionによりその発現部位を明らかとした.神経解剖学的研究については基礎的な条件検討は終了しており,今後サンプル数を増やすことでホネクイハナムシ幼生の神経発生を解明することができる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は生きたプランクトン幼生の行動を経時的に観察することが中心となっている.令和2年度はコロナウイルス感染症拡大のために出勤が制限される期間が長かったために,生物を長期間観察する研究をすることが困難であった.また幼生行動解析の技術習得のために海外出張を予定していたが,それも実行することができなかった.行動解析の技術指導についてはメールベースでやり取りを続けたが,実験時間が制限されているために,効率が非常に悪かった.以上のように行動解析については当初の予定通り研究を遂行することができなかった. 一方で神経解剖学的な研究は,実験時間が断片的であっても,多少の遅れが生じるものの研究の遂行が可能であった.そのため条件検討など,研究遂行の基盤となる部分は完了することができた.しかしこちらについてもやはり実験時間の制限により当初の予定よりは多少の遅れが生じている. 以上の理由から全体として研究は遅れていると評価した.
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画であれば,令和3年度も引き続きプランクトン幼生の行動解析を中心に研究を進めつつ,免疫組織化学・電子顕微鏡・遺伝子発現などの方法を用いて,神経解剖学的な知見を蓄積していく予定であった.しかし現在も首都圏には緊急事態宣言が発令されており,長期の観察が必要となる実験がどの程度遂行できるのか見通しが立っていない状況にある.年度当初にこの状況にあることから今後についても予定通りに研究が遂行できない可能性が高い.その場合は研究期間内で成果が最大となるように計画の見直しが必要となる見込みである. 具体的には,まずは長期間の観察が必要となる行動実験は研究期間の後半に回し,令和3年度の前半は神経解剖学的な研究をすすめる.コロナウイルス感染症が収束しない場合は研究計画全体を見直す必要がある.例えば生物を使用した経時的な観察が必要な実験の割合を減らしつつ,断片的な時間でもある程度遂行可能な,神経解剖学的研究・形態学的研究・発生遺伝学的研究の割合を増やすなどの対策で,研究を可能な限り遂行する.
|
Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症拡大のため,実験が計画通り遂行できなかった.そのために研究計画の遅延とともに,使用予定の実験物品などの購入を令和3年度以降に持ち越す必要が生じたため.
|