2021 Fiscal Year Research-status Report
バイオマーカーを利用した耐乾性コムギ育種法の確立および代謝物QTL解析
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20K06759
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
妻鹿 良亮 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教(テニュアトラック) (80738526)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 節水型耐乾性 / コムギ / 代謝物 / QTL解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
アブシシン酸受容体遺伝子の過剰発現によって気孔を閉鎖気味に保つことによって蒸散を抑え、水の消費量を低下させることで、種子収量を維持できる「節水型耐乾性」形質をコムギが獲得できることを先行研究において見出した。しかし、遺伝子組換え作物の社会的許容の観点からも遺伝子の過剰発現では栽培系統としての確立は現在の時世的に難しい。そのため本研究では、43種類のDゲノムドナーを親に持つ多重合成コムギ派生(MSD)集団という多様な遺伝的背景を持つ自然交配系統から節水型耐乾性系統の探索を行う。節水型耐乾性コムギは非節水型と比較して、(1)植物体の葉表面温度が高い。(2) 炭素安定同位体比の値が大きい。(3) 1000粒種子重の低下が小さい。等の特徴が見られる。しかし、いずれの表現型のデータを取得するためには、ある程度の大きさ、あるいは登熟まで植物を育てる必要があるため、申請者はより簡便な選抜方法を確立することを目的に形質バイオマーカーを探索する。その候補系統を (1)~(3)の表現型を指標としてスーダンの灌漑圃場においてコントロール区と乾燥区でMSD集団の栽培を行い、その登熟した葉を採取し、炭素安定同位体比を計測し、節水性形質を評価した。また、葉表面温度や収穫後の1000粒種子重の値と照らし合わせることで、節水型耐乾性および非節水型候補系統を選抜した。これらの系統を親系統として節水型と非節水型系統間で交配を行い、組換え自殖系統(RIL)集団を作製した。本年度は集団の世代促進を行い、F7世代の集団を得た。別の節水型および非節水型系統同士の組合せで作出したRIL集団の世代促進も開始した。また、GCMSによるメタボローム解析実験系を整備した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R3年度では、RIL集団の遺伝的背景が概ね固定化されたと推定できるF7世代への世代促進が完了した。また、GCMSによるメタボローム解析実験系を整備が完了し、RIL集団を用いたバイオマーカー探索のための準備は整った。R4年度中に個々のRIL系統のメタボロームデータ、炭素同位体比、ゲノムシークェンスデータが取得できる目処が立ったことから、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
R4年度では節水型耐乾性形質と相関の高い代謝物が何かを探るため、確立できたRIL集団の各個体のメタボローム解析を行う。同時にF7世代での炭素同位体比分析を行い、F7世代の系統における節水形質の分布を調べる。まずは節水性と高い相関を示す代謝物(バイオマーカー)の特定を試みる。さらに、代謝物QTL解析を行うために、ゲノムシークェンスデータを取得し、ジェノタイピングを行う。系統間の変異の位置と代謝物の蓄積量の比較、代謝経路解析の結果からバイオマーカーとなる代謝物の合成分解に関わるであろう原因遺伝子を特定する。
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Causes of Carryover |
R3年度途中においてGCMSのメタボローム解析実験系が確立できたことから、代謝物解析関連の消耗品費を節約できたこと、また、コロナパンデミックの影響で海外学会の中止があったことから、次年度使用額が生じた。繰り越された予算は次年度にゲノムシークェンスデータ取得のための実験に用いる試薬類や消耗品、外部受託サービスの一部に使用する。
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