2023 Fiscal Year Research-status Report
真核生物の加速度的進化は巨大ウイルスがもたらした-状況証拠から実態解明へ
Project/Area Number |
20K06772
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
松尾 充啓 摂南大学, 農学部, 准教授 (70415298)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小保方 潤一 摂南大学, 農学部, 教授 (50185667)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 巨大ウイルス / 有殻アメーバ / 細胞内共生進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は有殻アメーバから検出された、細胞内共生進化に関連する巨大DNAウイルスの性状を解析することを目的としている。2023年度は、有殻アメーバサンプルの電顕解析と前年度までに得られた有殻アメーバの巨大ウイルス配列の再解析を行った。前者の電顕解析からは、複数のウイルス様構造物が検出された。特にストレス処理をかけた有殻アメーバのサンプルから、巨大ウイルスと目される500nm程度の構造物が観察された。有殻アメーバの巨大ウイルスはこれまでDNA配列上でしか存在が示唆されておらず、その姿・形を確認したものは世界を見渡してもまだいない。本研究で観察された構造物が、本当に有殻アメーバの巨大ウイルスかどうかを、現在、検証している。 またウイルスの配列を整理している過程で、ウイルス遺伝子を精度よく予想する手法を見出し、これまで予想が困難であった他の生物やウイルスに存在しない有殻アメーバウイルスに特有の遺伝子についても、より正確に遺伝子構造を予測することが可能になった。これにより、これまで不明瞭だった有殻アメーバウイルスのゲノムの多くの領域で新たな遺伝子が見いだされ、有殻アメーバウイルスのゲノムに含まれる遺伝子の様相がより鮮明になった。そして、その解析より有殻アメーバのウイルスのゲノムは、遺伝子領域ではGC含量が高く、それ以外では低くなるといった、真核生物のゲノムとよく似た特徴を持つことも判明した。 今回、見出した遺伝子構造の予測手法は、遺伝子発現情報がなくてもウイルス遺伝子の領域を、精度よく予想でき、原理的に有殻アメーバのウイルスに限らず、幅広い未知の巨大ウイルスのゲノム解析への応用も可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2023年度は、有殻アメーバのウイルスの電顕解析と、ウイルス濃縮サンプルの配列解読、有殻アメーバの生息環境に関するメタトランスクリプトーム解析、そして得られたウイルスの配列情報を整理して論文として発表することを目標としていた。1番目の電顕解析については、実際に巨大ウイルスと考えられる画像を取得することに成功し、目標を達成することができた。しかし2番目の配列解読については、解析のネックとなる宿主ゲノムの大量混入、ウイルスの絶対量の少なさといった問題を解決できず、予定していたシーケンス解析にまではいたらなかった。またこれまで得られた情報を整理している過程で、新しいウイルス遺伝子予測手法を見出したため、ウイルスゲノムの注釈をつける作業(アノテーション)を再度やり直した。新手法は、他のウイルスや生物にホモログが見つからない遺伝子に関して、高い正確性を持って遺伝子構造を予測するが、その注釈作業には時間と労力を必要とした。そのため、有殻アメーバサンプル内に含まれる多種多数なウイルス様配列のアノテーションに時間がかかり、メタトランスクリプトーム解析と最後の目標であった論文発表にまでには至らなかった。状況を総合的に勘案して、進捗状況は遅れていると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
電子顕微鏡解析からウイルスと考えられる構造物が複数、検出されている。これらを分離・解析できれば、本研究の主要な目的は達成される。ウイルスの分画、配列解析に焦点を絞り、それらの解析を残った助成金の範囲内で実施する。そして有殻アメーバサンプルに含まれる全DNAウイルスのゲノム情報の再アノテーションを完遂して、その結果を論文の形にして発表する。
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Causes of Carryover |
当該年度においては、予定していたウイルス粒子の配列解読、そして有殻アメーバが生息する環境サンプルのメタトランスクリプトーム解析を予定していた。しかし単離ウイルスの精製度が配列解読できる水準にまでいたらず、また新手法によるウイルスゲノム配列の再アノテーション作業を優先したため、これらの解析を年度内に実施することができなかった。そのためその解析費用が次年度使用額として残された。次年度使用額は当該年度で実施できなかったウイルス粒子の単離・配列解読実験の費用に充てる。
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