2020 Fiscal Year Research-status Report
食虫植物の消化酵素の起源と進化:遺伝子発現様式の変更による新規形質獲得の普遍性
Project/Area Number |
20K06777
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大山 隆 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60268513)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 新規形質獲得 / 食虫植物 / 消化酵素 / 自己防御遺伝子産物 / エピジェネティック制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
ツルギバモウセンゴケ(Drosera adelae)の消化液に関して、我々はこれまでに次のことを明らかにしていた。消化液を構成する主要な酵素・タンパク質は自己防御遺伝子産物であり、それらをコードする遺伝子は腺毛(当該植物の捕虫・消化器官)特異的に発現し、一部の遺伝子に関してはエピジェネティックな発現制御を受けている。本研究は、これらの特徴が食虫植物という生物全般に共通したものか否かを明らかにし、食虫植物の消化酵素の起源と進化の謎に迫ることを目的としている。 本年度は上記研究結果を精査し、さらに追加データを加えて、J. Exp. Bot.誌に発表した。その過程で以下のふたつの重要な新知見を得た。(1)消化液を構成する主要な酵素の遺伝子は、主に腺毛の頭部(主に腺細胞から成る)で発現するが、柄(stalk)を構成する細胞内でも少なからず発現する。なお、柄で合成された酵素は、その後、頭部に運ばれて分泌されるものと推察される。(2)食虫植物の消化液中の酵素やタンパク質と、非食虫植物が根の周辺にある有機物を分解したり、自己防御をするために分泌する酵素やタンパク質との間に共通性が見られる。なお、比較に用いた食虫植物は、ツルギバモウセンゴケ、ハエトリソウ(Dionaea muscipula)、フクロユキノシタ(Cephalotus follicularis)、ウツボカズラのひとつの種( Nepenthes alata)、サラセニアのひとつの種(Sarracenia purpurea)、およびムシトリスミレのひとつの種(Pinguicula x Tina)で、非食虫植物は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、イネ(Oryza sativa)、セイヨウアブラナ(Brassica napus)、およびムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
食虫植物の消化液を構成する酵素やタンパク質と、シロイヌナズナやイネなどの非食虫植物が根の機能のために分泌する酵素やタンパク質の間に共通性があることを見出した。これは、本研究の究極の目標である「食虫植物の消化酵素の起源と進化の謎を解く」大きな手掛かりになる発見であり、上記のような評価に値すると考えた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、今年度の研究で「食虫植物の消化酵素の起源と進化の謎を解く」大きな手掛かりになる発見をした。これは、本来植物(非食虫植物)が根の機能のために使用している遺伝子群が、食虫植物への進化の過程で消化液を作るために転用されたことを示唆するものである。そこで今後は、非食虫植物の根と食虫植物の消化器官の”中間的器官”での遺伝子発現を調べる方向に研究の舵を切る。具体的には、サクラの托葉(形体的にモウセンゴケの腺毛に似た器官を有する)での遺伝子発現を調べるとともに、イビセラ(食虫植物への進化の途上にあると考えられている植物)の葉や根でどのような遺伝子発現が起きているかを調べる。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍の影響で、実験を中心とした研究活動に大きな制約を受けた。一方、論文作成にかなりの時間を費やしたため、次年度使用額が生じた。すでに述べたように新たな解析をしなければならない状況が生じたので、そのために使用する計画である。
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