2021 Fiscal Year Research-status Report
食虫植物の消化酵素の起源と進化:遺伝子発現様式の変更による新規形質獲得の普遍性
Project/Area Number |
20K06777
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
大山 隆 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (60268513)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 新規形質獲得 / 食虫植物 / 消化酵素 / 自己防御遺伝子産物 / エピジェネティック制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、Drosera adelae(ツルギバモウセンゴケ)の消化液を構成する主要な酵素・タンパク質は自己防御遺伝子産物であり、それらをコードする遺伝子は腺毛(捕虫・消化器官)特異的に発現し、一部の遺伝子に関してはエピジェネティックな発現制御を受けていることを解明していた。本研究は、これらの特徴が食虫植物全般に共通したものか否かを明らかにし、食虫植物の消化酵素の起源と進化の謎に迫ることを目的としている。 今年度は、(1)D. adelaeの消化液中に新たに同定された1つのS1/P1ヌクレアーゼ(Arai et al., 2020)の性状解析と遺伝子発現解析、ならびに(2)Roridula gorgoniasとR. dentataの各粘液に含まれる酵素・タンパク質の同定と組織別遺伝子発現解析を実施した。 (1)に関しては、対象酵素をDAN1、その遺伝子をDan1とそれぞれ命名して解析を行った。 その結果、DAN1は291のアミノ酸残基からなる約32kDaのタンパク質であること、また、Dan1は9つのエキソンと8つのイントロンから構成されていることが明らかになった。さらに、Dan1はすでに報告した多くの遺伝子(Nishimura et al., 2013)と同様、腺毛特異的に発現しているが、エピジェネティックな発現制御は受けていないことが明らかになった。 (2)に関しては、R. gorgoniasの場合、D. adelaeの消化液中に確認されたタンパク質分解酵素などと似た幾つかの分解酵素の存在が確認された。加えて、これらをコードする遺伝子は腺毛特異的に発現していることが判明した。R. dentataについては、粘液を用いたプロテオーム解析と、葉の本体と腺毛を対象としたトランスクリプトーム解析を進めており、現在、取得したデータの解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度においても必ずしもコロナ禍が解消されたわけではなかったが、昨年度に比べて入構規制が緩和されたこともあり、予定していた研究(コロナ禍の影響が大きかった昨年度に若干の軌道修正を行なった)をおおむね実施することができた。さらに上述のような研究成果も得られたため、自己評価を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、R. dentataの粘液に含まれる酵素・タンパク質の同定と組織別遺伝子発現解析を完了させる。2021年度にプロテオームとトランスクリプトームの各解析の基礎となるデータは取得した。現在、それらの解析・整理を進めているが、まだ結論を下す段階には至っていない。そこで、引き続きこの研究を進める。この他、 Ibicella lutea(キバナツノゴマ)が分泌する粘液に含まれるタンパク質群の網羅的解析を行う。また、D. adelaeで新たに同定された、もう1つのS1/P1ヌクレアーゼ(DAN1とは異なる酵素)の性状解析と遺伝子発現解析を行う。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で予定していた出張や研究を十分に実施することができなかったためである。今年度の出張や消耗品購入に使用する予定である。
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