2020 Fiscal Year Research-status Report
ヤスデ類におけるミュラー型擬態環の形成、消失、移行をもたらす進化機構の解明
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20K06799
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
田邊 力 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (30372220)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 擬態 / ヤスデ / 警告色 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書にて計画していた項目のうち、3項目については成果を得ることができたので、次に記す。(1)ヤスデ類の毒腺サイズ測定:ヤスデ類ミュラー型擬態環の進化に影響を与えるものとして、ヤスデ類の4つの体色モルフ(ミドリババヤスデ灰色、同灰とオレンジの中間色、同オレンジ、アマビコヤスデ灰色)間の毒腺サイズ(毒のコスト)の違いを考え、代表的な27集団について毒腺サイズを測定した。その結果、ミドリババヤスデ灰色モルフにおいて毒腺サイズが他のモルフより小さい傾向にあることがわかった。ミドリババヤスデ灰色モルフはアマビコヤスデ灰モルフと擬態環を形成しており、毒腺サイズ(毒のコスト)と擬態環形成に何らかの関係があることが示唆された。(2)ヤスデ類捕食者の特定:2016年に実施したヤスデ型クレイモデルを用いた野外実験のデータを解析し、ヤスデ類捕食者として、カニ類の重要性を明らかにした。(3)ヤスデ類の分子系統推定:RAD-seqデータに基づくヤスデ類集団間の系統推定について、人為的な移入の影響を受けていていると思われるデータを除くなど、データを再評価した上で解析をやり直し、より自然な分子系統樹を得た。 上記以外に次の成果を得た。(4)ヤスデ類体色モルフ分布図の作成:基礎データとして重要と判断し、対象ヤスデ類約500集団について、写真に基づく体色データを整理し、各集団の緯度経度に基づいて体色モフル別の分布図を作成した。(5)本研究課題に関する最初の論文原稿の執筆に取りかかった。本年内の投稿を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究が遅れた第一の理由は、ヤスデ類捕食者の特定のためのクレイモデルを用いた野外実験データの解析に数ヶ月を要したことである。クレイモデルに残された捕食痕から捕食者を推定する作業は難解であり、全クレイモデル、約500個ついて精査による見直しを必要とした。第二に、ヤスデ類の毒腺サイズ測定においても、時間を要したことがあげられる。2個体のデータを得るのに、2日間で5時間を要するのに加え、当初のプロトコルでは測定精度が粗く、見直しを必要とした。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の方策により、研究を推進する。 (1)雇用の活用:本研究では、体色波形、体色写真、地理的分布、クレイモデル野外実験等に関する多数のデータを扱う。それらデータの整理とクリーニング、及び多数のヤスデ類サンプルの整理には、多大な労力を要するため、雇用による技術支援を最大限に活用する。 (2)画像データ解析及びグラフィック作業環境の改善:本研究課題では多数の写真を含む画像データを解析し、論文原稿執筆においては複雑な図を作成する。これらの作業は、PCの高い処理能力とディスプレイにおける多数のウィンドウの同時一覧性を必要とすることから、最新のPCと複数のPC用ディスプレイを導入し、画像データ解析及びグラフィック作業環境を改善する。 (3)研究計画の見直し:初年度の進捗状況と、作業項目として新たに原稿執筆が入ったことを考慮し、常に研究計画を見直しながら研究を進める。(i)ヤスデ類体色モルフ間のハエ類捕食寄生成功率の比較、(ii)ヤスデ類各体色モルフにおける東海・関西地方でのアバンダンス解析、(iii)ヤスデ類体色モルフ間の生存率比較については、現有データで解析できるため優先させる。残る(iv)ハエ類の捕食寄生プロセスの解明 、(v)分子系統解析に基づくハエ類とヤスデ類の共進化パターンの解明 、(vi)自動撮影カメラを用いたヤスデ捕食者の特定については、進捗状況を見ながら計画の見直しを検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は次の通りである。(1)コロナ禍により学会大会は全てオンライン開催となったことから、そのための旅費の執行がなかった。(2)RAD-seqデータの解析とその結果に基づく系統推定のために、高速のPCの導入を計画していたが、国立遺伝学研究所のスーパーコンピュータをオンラインで活用することで、導入を見送った。 翌年度分と合わせた使用計画は次の通りである。(1)旅費:学会大会が通常のオフライン実施となれば、その参加のために旅費を執行する。県外移動の自粛が解かれれば、県外在住の共同研究者との研究打ち合わせのために旅費を執行する。(2)雇用:多数のデータ、サンプルを扱うことから、それらの整理のために雇用による技術支援を最大限に活用する。(3)最新PCと複数ディスプレイの導入:本研究課題では、多数の画像データを扱い、学会発表と論文原稿執筆においては複雑な図を作成する。これらの作業は、PCの高い処理能力とディスプレイにおける多数のウィンドウの同時一覧性を必要とすることから、最新のPCと複数のPC用ディスプレイを導入し、作業の効率化を図る。
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Research Products
(2 results)